在宅介護でよく問題になることのひとつに
「食べる量が少ない」
「思うように食べてくれない」
ということがあります。
食べることは楽しみでもあり、生命を維持するための基本的かつ、生理的な欲求とされています。
少しでも元気になってもらいたいと、一生懸命作った食事に対して「食べたくない」や「もういらない」と言われたり、苦痛の表情でふさぎ込んでしまったりするとどうでしょうか?
介護する側も心配になりますし、ストレスがたまってしまいますよね。
「食べる」メカニズムを知ることで、過度な心配や介護ストレスを軽減することができます。
今回は、介護をしている家族や利用者さんが、食事を取らなくなった時に押さえておきたいポイントをお伝えします。
【事例】 食事量が減っている認知症のAさん
85歳の女性Aさんは、5年前に認知症の診断を受けました。
現在は娘さん家族と同居しています。
最近は日中もウトウト寝ていることが多く、食事を出してもぼーっとしていたり、数口だけ食べて食事をやめてしまったりすることが増えてきました。
そうかと思えば、部屋をウロウロして食べ物を探すことがあります。
娘さんは栄養面にも気を配り、一生懸命食事を作っています。しかし、Aさんのそういった行動についイライラしてしまい、娘さんは悩んでいます。
摂食嚥下について「食べる」メカニズムを知ろう
「食べる」という行為は、脳からの命令によって、口や喉の器官、感覚、神経、筋肉が一斉に動き始めることで起こります。
主に5つの時期にわけられます。
- 先行期:食べ物を認識する
- 準備期:唾液と咀嚼で食べ物をまとめる
- 口腔期:舌によって喉に送り込む
- 咽頭期:飲み込む瞬間に気管にフタをする
- 食道期:胃に送り込む
食べるためにはこれらの動作が、スムーズに連動して働かなければなりません。
いずれかの動作が、ケガや病気によって障害されてしまうと、摂食嚥下障害が起こってしまいます。
嚥下の状態
- いつどんなものを食べた時にむせやすいか
- 覚醒していたか
- 眠気が強い状態で食べていないか
- 口の中に食べ物が残りやすいか
- 食事の後にゴロゴロした音が聞こえていないか
食事の最中や、食後に上記のような症状が見られるときは、医師や看護師、言語聴覚士などの専門職に相談するようにしましょう。
なぜ食べなくなってしまうのか?原因と対策
【原因1】食事だと認識できていない
- 認知症など認知面の問題で、食べ物が認識できていない
- 箸やスプーンなど道具の使い方がわからない
- 目が不自由、においがわからないなどの感覚の問題
- ウトウトして眠気が強い
食べ物を認識するところから食事は始まっています。
視覚の情報が食事に大きな影響を与えるといわれており、視覚がおよそ87%、味覚が1%とも言われています。
加齢による視力低下をはじめとする感覚機能の低下や認知力の低下によって、目の前にあるものが食べ物だと認識できていないことも原因として考えられます。
食事を認識できていない時の対処法
- しっかり目が覚めるまで待つ
- 声かけをする
- 食事の動作を介助する
- ペースト食やミキサー食は混ぜない
- 食材や料理名を伝える
などがあげられます。
【原因2】口腔機能や嚥下機能に問題がある
歯や口腔、舌、喉の器官に問題がある場合も、食事が取れなくなる原因になります。
具体的には
- 口の中や喉に傷や炎症がある
- 唾液の分泌が少ない
- 歯周病で歯茎が腫れて痛みがある、歯がぐらついている
- 義歯が合っていない
- 脳や神経の病気による後遺症や加齢により舌や喉の筋力に問題がある
などです。
口腔機能や嚥下機能に問題がある場合の対策
- 定期的に歯科受診をする
- 口腔ケアや口腔体操を行う
- きざむ、ペースト状にするなど、食事の形態を変える
- 水分や食事で頻回にむせ込む場合は、主治医に相談し専門家の検査を受ける
デイサービスでは口腔機能訓練といって、口や喉の体操を積極的に行っているところもありますので、利用してみるのもよいでしょう。
【原因3】身体機能や体調に問題がある
ハッキリと症状が伝えられない方が、どこか体調が悪い時に、
- 足腰が立たない
- 食欲が落ちている
- ずっと寝ている
このような症状が出る場合があります。
明らかに食欲が落ち、短期間で目に見えて痩せてきている場合は、できるだけ早く受診し医師の指示を受けるようにしましょう。
それでも食べられない場合は?
病気の進行や加齢により、あらゆる対策を行っても緩やかに食欲が低下していくケースもみられます。
そういった場合は医者や専門家と相談しながら、食事を取るタイミングを工夫したり、摂取しやすい栄養補助食品を摂ったりしてみましょう。
食事の時間にこだわらず、食べられる時に食べる
しっかりと目が覚めている状態で、食事を始めることが大切です。「決まった時間にこだわらず、『食べられる時に食べられるものを食べる』」といったように、介護する側も気楽に考えましょう。
特に、認知症の方は症状が進むと、ちょっとした活動でも脳が疲れてウトウトしてしまう人も少なくありません。
昼夜逆転を防ぐためにも、日中はできるだけ起こしておく必要はありますが、あまりにも眠りが深いときは、無理に起こして食べさせようとすると誤嚥の危険性が高まります。タイミングを見て食事を取ってもらいましょう。
栄養補助食品や宅配、市販の介護食を利用する
介護は24時間365日休みなく続きます。中には、家事や育児、仕事をしながら介護をしている人も少なくないでしょう。
介護食を手作りしようとすると、栄養バランスを考えたり、柔らかくしたり、刻んだりと手間がかかることがあります。食事は頑張り過ぎず、市販の介護食や宅配食などを利用してみましょう。
宅配弁当は減塩食など、栄養管理が必要な人向けに作られているものがあります。今は見た目にもこだわった、ペースト食やムース食なども豊富です。
介護保険を利用すれば、補助が受けられる宅配サービスもあるので、まずは担当のケアマネージャーに相談してみましょう。
栄養状態のチェックを受ける
血液検査をすれば、栄養状態がわかります。
たとえ食事量が少なくても「検査をしてみたらそれほど栄養状態は悪くなかった」というケースがあります。
活動量が少なければ基礎代謝は低下してしまうため、あまりエネルギーを必要としていないという身体からのサインです。
それでも心配というときは、主治医に相談して、定期的に栄養状態をチェックしてもらいましょう。
まとめ
今回は、食事を取らなくなってしまったときの原因と対策についてお伝えしました。食事を取れない原因は、認知面、摂食嚥下機能、体調面などの問題が引き金となって引き起こされます。しかし、口の中や喉の状態は見た目だけでは判断できません。医師、歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士などの専門家に相談して、状態を確認してもらうことが大切です。
また、食事形態に工夫が必要な場合は、介護する側への負担も大きくなってしまいます。毎回というわけではありませんが、ときには市販品を利用して「手を抜いてみる」のもひとつの手段です。不安がある場合は、一度担当のケアマネージャーに相談してみましょう。