認知症の症状としてよくみられる「徘徊」。
徘徊が原因で、転倒してケガや骨折をしてしまったり、外に出てしまい行方がわからなくなったりと、介護する家族にとっては負担の大きい症状といえます。
周りの人から見れば、意味もなく歩き回っているようにみえますが、本人にとっては目的やきっかけになる原因がある場合があります。
認知症とうまく付き合っていくためにも、なぜ徘徊が起こっているのかを理解しておくことが大切です。
【事例】認知症で徘徊してしまうBさん
82歳の女性Bさんは認知症の診断を受けており、息子さんと同居をしています。
物忘れこそあるものの、声かけや少しのお手伝いで、身の回りのことはこなせていたBさん。
しかし最近は、夜中に起き出しては家の中をウロウロするようになったのです。
その結果、昼夜逆転になってしまい、日中はウトウトと眠ってしまうように。
介護をしている息子さんも寝不足が続き、大きなストレスを抱えています。
なぜ夜中に徘徊してしまう?その原因は?
認知症の症状は、
- 中核症状である認知機能障害
- 周辺症状である行動心理症状(BPSD)
の2つに分けられます。
中核症状は脳の病変が原因で起こる認知機能障害
主な中核症状には
- 記憶障害
- 見当識障害
- 理解力の低下
- 判断力の低下
- 実行機能障害
- 失語、失行、失認
などがあります。
さまざま原因で引き起こされる行動心理症状
行動心理症状(BPSD)は、認知機能の変化や心身の変化、環境などの影響によって引き起こされる精神と行動の症状です。
精神症状としては
- 不安
- 抑うつ
- 妄想
- 幻覚
行動症状は、
- 徘徊
- 多動
- 不潔行為
- 収集
- 暴言、暴力
- ケアへの抵抗
- 睡眠障害
などがあげられます。
Bさんに見られた徘徊は、なんらかの影響で引き起こされた認知症の行動心理症状と考えられます。
徘徊を助長させる原因とは?
徘徊を助長させる原因として以下のものが挙げられます。
身体的問題、体調不良による徘徊
認知症になると体調に変化が起こっても、うまく伝えられない場合があります。
特に排尿や排泄に関する不調や、プライベートゾーンのスキントラブルなどは、家族であっても確認しづらいことがあるので注意が必要です。
身体に感じる痛みや、不快感を言葉でうまく伝えられない時に
- 落ち着きがなくなる
- ケアを拒否する
- 元気がなくなる
などの行動があらわれる場合があります。
記憶障害や見当識障害による徘徊
何か目的があって動き出したものの、目的を忘れてしまったり、今が何月何日なのか、どこにいるのかがわからなくなったりして不安が募り、ただ歩き回るだけになることがあります。
また、持ち物をどこに置いたのか分からなくなり、探していることもあります。
慣れない場所で過ごすことになると、なぜそこにいるのかを忘れてしまい、帰宅願望から動き回ってしまう可能性もあるのです。
長年の習慣や思い込みによる徘徊
長期記憶は保たれるため、記憶が若返ることがあります。
長年会社へ出勤していた人は、ふと会社のことを思い出し、出かけていこうとしたり、子供のために夕食を準備しようと台所をウロウロしたりすることも。
さらには、記憶が子供時代にまで遡り、自分自身が生まれ育った実家に帰ろうとする行動がみられることもあります。
不安やストレスが原因の徘徊
認知症になると、実行機能障害や失行などの症状により、今までにできていたことが上手くできなくなってしまいます。
本人もまた「こんな簡単なことができないなんて…」と不安やストレスを感じています。
そんな時に、介護者や家族の対応によっては怒りだしてしまったり、暴言や暴力、パニックになり家を出て行ってしまったりするなどの行動に出てしまうこともあるのです。
徘徊に対する対策は?
徘徊に対する対策としては以下のものが挙げられます。
主治医や専門職に相談を
まずは、主治医やケアマネジャー、専門職に相談することが大切です。
内服など治療方針を変更することで、徘徊などの行動心理症状が落ち着くことがあります。
また、認知症の対応に慣れた専門職から適切な対応方法などをアドバイスしてもらいましょう。
頭ごなしに否定せず話を聞いてみる
一見すれば問題行動のように思えても、本人にとっては意味があり、何らかの思いがあっての行動かもしれません。
例えば、夜中にウロウロしているところをみつけたら、「どうしたの?何か気になることがあるの?」と本人が話す内容に耳を傾け、気持ちに寄り添いましょう。
- 「家に帰りたい」
- 「トイレに行きたい」
- 「財布がみつからない」
- 「出かけなければいけない」
など本人なりの理由が見つかるかもしれません。
今すぐ解決できない内容の訴えであれば、気持ちに寄り添いながら徐々に話しの内容をずらしていくのがポイントです。
例えば、深夜に帰りたいと言い出した場合は「家に帰りたいんだね。お母さんの実家の方は、自然がいっぱいだもんね。子供の頃は何して遊んでたの?」といったように、会話の内容を徐々にずらしていきながら、気持ちが落ち着くのを待ちます。
そして、落ち着いたら時計などをみせて、再び床に就くよう誘導します。
気持ちが落ち着く鉄板エピソードを知っておく
認知症の人は、同じ話を何回もくりかえすことがあります。
また同じ話をして…と思うかもしれませんが、裏を返せば、強く記憶に残っている印象深いエピソードでもある、ということです。
ある方は、若い頃に社交ダンスをしていたことがあり、当時のことを目をキラキラさせて話をしてくれます。
日頃から接していく中で、本人の鉄板エピソードを把握しておきましょう。
その話題に誘導することで、本人の気持ちを落ち着かせる手助けになります。
徘徊に備えて環境を整える
夜中でもトイレの場所が分かりやすいように、看板をつけるなど一目見てわかるように工夫をするとよいでしょう。常夜灯やセンサーライトなども有効です。
転倒してケガをしないように、物をできるだけ床には置かないようにすることも大切です。
また、外に出てしまう可能性がある場合は、近所の人や民生委員、警察などにも声をかけておき、見かけたら連絡をするようにお願いしておきましょう。
見守る目が増えることで、重大な事故を防ぐことができます。
介護サービスを活用し、生活リズムを整える
デイサービスや体操教室、散歩などに出かけて、日中を活動的に過ごすようにしましょう。
困ったことはケアマネジャーに相談し、本人に合う介護サービスを利用して、介護者の負担を軽減することも大切です。
【事例】Bさんのその後…
Bさんの状態を主治医に相談し、検査をしたところ、Bさんは軽い膀胱炎になっていることがわかりました。
頻尿になっていたことや身体の不調によるストレスをうまく伝えることができなかったために、夜間に歩き回るという行動になったと考えられます。
膀胱炎の治療と認知症の内服を調整したところ、夜間の徘徊はなくなりました。
また、日中も家で過ごすことが多くなっていたため、デイサービスに通うことになりました。
日中は身体を動かして、夜もゆっくり眠れるようになったそう。
まとめ
認知症による徘徊は、様々な原因によってひきおこされる行動心理症状によるものです。
徘徊の原因としては、身体の不調や認知機能障害による記憶障害や見当識障害、個人の習慣やストレス、環境の変化によるものなどが考えられます。
認知症の症状には個人差があり、介護者にも負担が大きくなりがちです。
困ったことがあれば、決して抱え込まず主治医や専門家、ケアマネジャーに相談することが大切です。