『終末期リハビリテーション』という言葉をご存知でしょうか?
「終末期」と聞くと、ネガティブなイメージがありますが、終末期リハビリテーションには、自分らしく生きるためのヒントがあります。
少し前までリハビリテーションを受ける対象の人は、怪我をして負傷した方が中心でした。
しかし、日本は高齢化社会になるにつれて、
- 障害があっても身体の機能を維持する
- 介護状態になることを予防する
- 高齢になっても自立した生活を送る
といったことを目的とした、慢性期に行うリハビリテーションの需要が高まっています。
※慢性期とは…病状は比較的安定しているが、治癒が困難で病気の進行は穏やかな状態が続いている時期のこと
ただ、終末期リハビリテーションは、まだまだ一般的な認知度が低いのが現状です。そこで今回は、終末期リハビリテーションについて解説していきます。
終末期リハビリテーションってなに?
はじめに『リハビリテーション(Rehabilitation)』とは、「再び」を意味するReに「人間らしく」を意味するラテン語のhabilitareを組み合わせたものが語源といわれています。直訳すると「再び人間らしい生活を取り戻す」といった意味になります。
終末期リハビリテーションの対象となる方は、病気や加齢により近い将来の死が避けられない状況にある方です。
捉え方によっては、終末期の大変な時期にわざわざ身体を動かす必要があるのか?と思われるかもしれません。
しかし、最期の時であってもトイレや着替え、食事など日常生活に必要な動作を自分で行えることは、自分らしく人間らしく尊厳をもって生きることに繋がるのです。
終末期リハビリテーションってどんな効果があるの??
「終末期だから安静にしておかなければいけない」ということはありません。
必要以上に安静にしていると、関節や筋肉が固くなり、痛み・床ずれの原因になってしまいます。
まずは医師の診察を受け、指示を仰ぎましょう。
その上で体調をみながら、リハビリの専門家である理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのアドバイスを受けて、可能な範囲で身体を動かします。
たとえ終末期であっても、リハビリテーションを受けることによって様々な効果を得られるのです。
身体の機能を維持する
身体に何らかの不自由があったとしても、「トイレは自分で行きたい」と考える方がほとんどではないでしょうか。
身体の機能を維持するために大切なのは「可能な限り自分の足で立つこと」です。なぜなら、立つことさえできれば、歩くことが難しくても車椅子に乗り移る事ができるからです。
車椅子で移動してトイレに行ったり、家族と同じテーブルで食事をしたり、体調が許せば出かけたりすることもできます。さらに、何かにつかまってでも立つことさえできていれば、家族の介護負担や活動範囲は大きく変わってきます。
痛みをやわらげ身体が硬くなることを予防
繰り返しになりますが、過度な安静は血行が悪くなり、筋肉が硬くなってしまいます。
すると、腰や背中といった身体の痛みや、手足を動かすことで痛みが生じます。
リハビリテーションを受け、適度に身体を動かしながら筋肉の収縮を促すことで、血行が改善され、痛みを予防することができます。
褥瘡(床ずれ)の予防
同じ姿勢のまま長時間ベッドに横たわっていると、骨が突出している部分に褥瘡(じょくそう:床ずれ)ができてしまいます。
自力で寝返りがうてなくなってしまうと、褥瘡が起こりやすくなります。
リハビリテーションで硬くなりやすい筋肉や関節を動かしたり、寝返りの方法やクッションの挟み方を工夫したりすることで、褥瘡を予防することができます。
倦怠感の緩和
終末期では、体力の低下により身体のだるさを感じることが多くなります。
研究によると有酸素運動を行うことで、心肺機能が改善し、倦怠感が軽くなったという結果が出ています。
有酸素運動というとウォーキングなどを思い浮かべますが、身体を起こして深呼吸をしたり、座ったままでゆったりと体操したりするだけでも十分な効果を得られます。
食べる楽しみを維持する
口の中の筋力や飲み込む力が低下することで、飲食した物が気管に流れてしまうことがあります。もしも、そのような状態が繰り返し起きてしまうと、肺炎を起こす危険性が高まります。
言語聴覚士による嚥下(えんげ)訓練や食物形態の調整、食べ方の工夫をアドバイスしてもらうことで、食べる楽しみを維持することができます。
内臓にも良い影響がある
身体を動かすことで、内臓の血流も良くなります。寝たきりの状態だと全身の血流が滞り、内臓の働きが低下してしまうからです。
便秘や食欲低下がある場合、胃腸の働きが良くなることで食欲増進や便秘の改善が期待できます。
ちなみに余談ですが、リハビリテーションを受けている最中に、トイレに行きたくなる人はけっこう多いです。
本人や家族の心のケア
本人はもちろんですが、本人を支える家族もまた不安な気持ちを抱えながら日々を過ごしています。
運動を適度に行うと「セロトニン」や「ドーパミン」などの脳内物質が出て、抑うつ気分や不安の改善に効果があると言われています。
また、身体を動かして全身の筋肉に血流が増えることで筋肉が緩み、リラクゼーション効果を得られます。
終末期の方やその家族は、死に対する恐怖・大切な人との別れ・言葉にできないような不安や孤独感を抱えています。
運動に集中することで、ネガティブな考えから少し離れることもできるでしょう。「今を生きている」ということを実感できるのです。
終末期でも自分らしく過ごすための3つの心得
終末期のリハビリのコツを3つご紹介します。
自分でできることは自分で行う
終末期リハビリテーションは専門家だけが行うものではありません。本人や家族の心がけで、生活のすべてがリハビリテーションになるのです。
終末期リハビリテーションで大切なことは、「過剰な介護や介助にならないようにすること」です。
本人の意思を確認せず、なんでもかんでも手伝ったり、危険から守ろうと行動を禁止したりするのは、本当のやさしさではありません。
自分でできることは自分で行うことを心がけてみましょう。
自分でできるように工夫してみる
福祉用具を準備するなど、自分でできるように工夫してみるのもひとつの手です。最近の福祉用具は様々な種類や機能があるため、その人にあった福祉用具が必ず見つかるはずです。
介護保険を使えば、少額の自己負担で福祉用具を購入したりレンタルしたりすることができます。
例えば、1人で歩くことが不安な場合、歩行器や置型の手すりを設置すれば、トイレまで自分で行くことができるかもしれません。
どのような福祉用具が必要か、リハビリテーション専門職に相談してみてください。
歩くこと、動ける自由を奪わないよう支援する
介助する家族も病状の変化による不安から、何となく動かすのが怖いと感じてしまうこともあります。その結果、過剰な安静や過度な介護をしてしまっているケースがあります。
しかしながら、身体の状態は一人ひとり異なります。
そこで、専門家である理学療法士や作業療法士、言語聴覚士に身体の状態に合った介助方法を教えてもらいましょう。
自分でできることは自分でやってもらうことで、介助をする家族の負担も軽減することができます。なにより、本人の自己効力感(自分でできるという気持ち)も高く維持することができるのです。
まとめ
終末期になると「病状が悪化するのではないか…」「転んで骨折をしてしまうのではないか…」という不安から、必要以上にベッドの上で過ごしている方も少なくありません。
終末期にリハビリテーションを行うことで、心身ともに良い効果が期待できます。
動けないということは、すなわち「自由がなくなる」ということ。
- 自分でできることは自分でする
- 自分でできるように工夫してみる
- 「歩ける」「動ける」自由を奪わないように支援する
まずは、これら3つを心がけて過ごしてみましょう。
終末期であっても、自分らしく日常生活を送るために、身体機能は出来る限り維持していくことが大切です。