虫歯や歯周病などの歯の病気は、歯を失うきっかけとなり、食生活や社会生活等に支障をきたしてしまいます。
歯の健康を保つことは、単に食べるというだけでなく、食事や会話を楽しむなど、豊かな人生を送るための基礎となるものです。
最近では、歯の健康が全身の健康に影響を与えるとされており、国民皆歯科健診の方針が打ち出されるなど、国をあげて歯の健康に取り組もうとする流れがあります。
今回は歯と身体の健康を守り、健康寿命を伸ばすコツについてお伝えします。
「国民皆歯科検診」が推進されようとしている理由
政府は、2022年4月に全国民に対し、『毎年の歯科健診を受けてもらう「国民皆歯科健診」の導入』に向けて検討する方針をまとめました。
歯の健康を維持することで他の病気の誘発を抑え、健康寿命を延ばすことで医療費の抑制を目指したいとしています。
歯の状態が全身の健康に影響する!
歯の状態は全身の健康に影響することが知られています。
厚生科学研究「口腔保健と全身的な健康状態の関係に関する研究」によると、80歳高齢者を対象とした統計分析等から、抜けてしまった歯が少なく、よく咀嚼できている高齢者は、生活の質および活動能力が高いことがわかっています。
また、運動や視覚、聴覚機能にも問題が少ないことが明らかになっています。要介護者における調査においても、口腔内の衛生状態を改善したり、咀嚼能力の改善を図ったりすることで、誤嚥性肺炎の減少や、ADLの改善に有効であることが示されています。
参考引用:厚生労働省 歯の健康
歯を失う最大の原因は”歯周病”
歯周病は歯を失う最大の原因と言われています。歯周病は、歯周病菌と言われる複数の細菌が関わっていると考えられています。
歯周病菌は酵素や毒素を出して、歯を支える骨を溶かしてしまいます。その結果、歯がグラグラしてきたり、歯肉が下がってきたりして、最終的には歯が抜け落ちてしまうのです。
そして近年、特に注目されているのが、歯周病菌が全身の疾患に関係しているということです。
歯周病菌の作り出す酵素や毒素、歯周病組織で作られるサイトカイン(炎症を引き起こす物質)が、血管を通して全身に運ばれることで、全身の疾患に悪影響を及ぼしていると考えられているのです。
歯周病菌と関連が深いとされている病気には以下のものがあります。
- 認知症
- がん
- 脳梗塞
- 心筋梗塞
- 心内膜炎
- 誤嚥性肺炎
- 糖尿病
- 動脈硬化
- 早産、低体重児
- 肥満
- 骨粗鬆症
歯の健康を守るためには、若い時からの積み重ねが大切です。
高齢になったから気をつけるのではなく、老若男女全ての世代の人が、歯の健康について意識を高める必要があります。
歯の健康を維持するにはどうすればいい?
歯を失うリスク因子としては、喫煙、歯周病の有無、口腔内清掃が不十分、虫歯の有無等が示されています。
一人ひとりが、歯の健康に対する意識を上げることが大切です。
セルフケアの実施と定期的な歯科検診を受け、歯石除去、歯と口腔内の清掃、早めの治療を心がけることが大切です。
80歳で20本!8020運動が推奨されるワケ
高齢者において、歯の喪失が10歯以下であれば食生活に大きな支障を生じないとされています。
生涯にわたって自分の歯を20歯以上保つことが、噛む力を維持して、健やかな生活をすごそうという8020(ハチマル・ニイマル)運動が提唱・推進されています。
あなたは大丈夫?歯周病セルフチェック
歯周病は早めの発見と治療が大切です。
セルフチェック表をご紹介しますので、ぜひチェックしてみてください。
歯周病セルフチェック表
- 歯ぐきに赤く腫れた部分がある。
- 口臭がなんとなく気になる。
- 歯ぐきがやせてきたと感じる。
- 歯と歯の間にものがつまりやすい。
- 歯をみがいたあと、歯ブラシに血がついたり、すすいだ水に血が混じることがある。
- 歯と歯の間の歯ぐきが、鋭角的な三角形ではなく、おむすび形になっている 部分がある。
- ときどき、歯が浮いたような感じがする。
- 指でさわってみて、少しグラつく歯がある。
- 歯ぐきから膿が出たことがある。
「判定」
〇チェックがない場合
これからもきちんと歯みがきを心がけ、少なくとも 1 年に 1 回は歯科健診を 受けましょう。
〇チェックが1~2個の場合
歯周病の可能性があります。まず、歯みがきのしかたを見直しましょう。念のため、かかりつけ
の歯科医院で、歯周病のチェックや歯みがきの方法を確認してもらいましょう。
〇チェックが3~5個以上の場合
初期あるいは中等度歯周炎以上に歯周病が進行しているおそれがあります。早めに歯科医師に相談しましょう。
引用:財団法人 8020推進財団 「からだの健康は歯と歯ぐきから」パンフレットより抜粋
健康寿命を伸ばす歯のケア方法とは?
歯を健康に保つには普段からどのようなことに気をつけていけばよいのでしょうか。
定期的に歯科検診を受ける
虫歯や歯周病の原因となる歯垢は、歯の形や歯並びの状況などから、自分で完全に除去することが難しいとされています。
そのため、自己管理に加えて専門家による歯石除去やクリーニング、予防のための処置を併せて行うことが重要です。
定期的に歯科医師、歯科衛生士による予防的な処置を行うことで虫歯や歯周病を予防し、歯を失うことを予防できるという結果が、多くの研究から明らかにされています。
痛みや不快感がなければ、歯医者から足が遠のいてしまいがちですが、痛みが出てからでは既に症状が深刻化していることも少なくありません。
定期的に歯科受診をして、口腔内のチェックや予防処置をしてもらうようにしましょう。
身体的・環境的な問題で通院が難しい場合は、訪問歯科も増えてきていますので、ケアマネジャーに相談してみましょう。
歯のセルフケアを見直そう
歯のケアをもう一度見直してみましょう。
歯ブラシや歯磨き粉に加えて、以下のツールを使うとさらに効果的です。
- デンタルフロス
- 歯間ブラシ
- 電動歯ブラシ
- 部分用歯ブラシ
- マウスウォッシュ(洗口剤)
- 機能性ガム(キシリトールガム)
生活習慣のチェックと改善
歯周病は、口腔内の環境のほか、食習慣や喫煙、睡眠、ストレスなどとも関係が深く、これら生活習慣の改善によって予防することができます。
まずは、栄養バランスのとれた規則正しい食事を心がけましょう。
よく噛んで食べることで、肥満や糖尿病など歯周病の発症や悪化に関わる病気を予防することができます。
まとめ
日本では、国民皆歯科検診義務化が推進されようとしています。なぜなら、歯の状態が悪くなることで、全身の健康に悪影響を及ぼすからです。
歯を失う最大の原因は歯周病であり、歯周病を予防して、歯を失わないようにすることが、全身の健康を保ち健康寿命を伸ばすことになるのです。
歯を守るには、セルフケアを行うのはもちろんですが、定期的に歯科検診を受けることや生活習慣を整えることも大切です。
個人個人で歯の状態が異なるため、予防処置や自分に合ったケアの方法を指導してもらいましょう。