在宅で介護をする方の中には、体位変換や移乗介助などで、腰痛に悩まされている方も少なくありません。
介護は、中腰姿勢での作業が多いため腰痛になりやすいといえます。悪化してしまうと、介護する側の日常生活にも影響を及ぼす恐れがあります。そのため、介護をしている人は、日頃から腰痛を予防するケアや対策が必要なのです。
そこで今回は、介護による腰痛を予防するための対策や腰痛になってしまった時のケア方法をご紹介します。
介護で腰痛になる原因とは?
なぜ介護で腰痛になりやすいのでしょうか。その理由は、介護をする際の姿勢や動作が腰に負担がかかりやすいためです。
腰痛になる原因について解説していきます。
腰に負担がかかりやすい介護姿勢
介護で腰に負担がかかりやすい姿勢は以下の3つが挙げられます。
- ベッド上でのオムツ交換や退位交換時などの前かがみ姿勢
- 移乗や介助時に足の位置はそのままで腰だけをひねって持ち上げたり、支えたりする
- 入浴介助など長時間中腰の姿勢が続く
腰の骨には「椎間板」と呼ばれるゲル状の組織が存在します。椎間板はクッションの役割をもっており、日常動作で発生する腰への負担や圧力を和らげてくれています。しかし、腰への圧力が大きくなると、椎間板のみでは圧力を緩和できなくなるため、周辺の靭帯や筋肉が強い力を発揮するのです。
日常的にその状態が続き、筋肉や靭帯が疲労してまったり、損傷してしまったりすることで腰痛は発症するのです。
また、姿勢の変化による椎間板へ圧力の変化を調べた文献によると、立位姿勢時の椎間板への圧縮力が100%とした場合、立位で前に屈む姿勢で150%、前に屈みながら物を持ち上げる姿勢では220%の上昇が見られました。
(参考文献:Nachemson A :The lumbar spain.An orthopaedic challenge.Spain 1:59-71,1976)
つまり、中腰や前かがみで人を支えたり抱えたりする介護での動作は腰への負担が多く、腰痛を発症する原因になるのです。
介護による腰痛を予防するには?
介護による腰痛を予防するには、痛みがない時から対策をすることがとても大切です。
ここでは具体的な対策方法をお伝えします。
要介護者の力を上手く利用する
介助の前に声かけをして利用者自身の動きを引き出すことも腰への負担を軽減させることに繋がります。介助時には、必ず声かけを行い、要介護者がどれくらい手足の力があるのかを確認することが大切です。
車椅子に乗っていても、手足の力を使える人はたくさんいます。本人の力を上手く利用して介助することで、双方にメリットがあります。リハビリテーションの専門家に、要介護者にどれくらい能力があるかや、身体に負担の少ない移乗方法を教えてもらうとよいでしょう。
腰痛を予防する介護姿勢
前述した通り、腰を曲げたまま重い荷物を持ち上げる姿勢は、腰への負担を増大させます。
介護姿勢で注意したいポイントは、以下の4つです。
- 腰を曲げて介助しないよう、スクワット時のような姿勢を意識する
- 靴や靴下の介助時は、腰を落としてしゃがんで介助をする
- 移乗時はお腹に力を入れ、腹圧をかける
- ベッド上での体位交換やオムツ交換の時に時は、片膝をベッドにのせる
介護する側は、自分の身体に意識を向けて、介護姿勢をチェックしてみてください。
福祉用具・福祉機器を活用しよう
自分の力だけで何とかしようとせず、福祉用具や福祉機器を上手に活用しましょう。
介護保険の福祉用具レンタルでは、介護の助けになる様々な用具や機器がレンタル・購入できるようになっています。
在宅介護では、家の構造や家具の配置などで、理想的な位置にベッドが置けなかったり、介護する側も無理な姿勢を強いられることがあります。
介助姿勢の改善だけでは完全に腰痛を防ぐことは難しい場合があります。在宅介護では、自宅環境に合わせて福祉用具や機器、住宅改修なども検討しましょう。
介護される側だけでなく、介護する側の身体を守ることも在宅介護をうまく継続させる大切なポイントです。
腰痛を予防するストレッチと運動
腰痛を予防する具体的な方法をご紹介します。5分程度でできるので、毎日の習慣に取り入れてみてください。
お尻上げ運動
- 仰向けになります。
- 息を吐きながらお尻を5秒間持ち上げます。
- 身体と足が平行になるところまでお尻を持ち上げます。
【ポイント】
足や太ももではなく、お尻に力を入れるようにします。
お尻と腰のストレッチ
- 仰向けになります。
- 息を吐きながら片足を抱えて、膝を体に近づけるようにして、20秒間とめます。
- もう片方の足も同じように行います。
【ポイント】
お腹の力を抜いて、お尻や腰が伸びるようにしましょう。
腰と背中の動きを良くする運動
- 四つ這いになります。
- 大きく息を吸いながら背中を丸めましょう。
- 息を吐きながら背中を反るようにしましょう。
【ポイント】腰はあまり動かさずに胸の部分をしっかり動かしましょう。
各1セット10~15回で、2~3セット行いましょう。これらの運動で痛みが増す時は速やかに中止し、理学療法士、医師などにご相談ください。
もしも腰痛になってしまったら?!
注意をしていても腰痛になってしまった場合はどうすればよいのでしょうか。
ぎっくり腰になってしまった時は
ぎっくり腰になった直後から当日は、痛みが強い時期です。横向きに寝るなど、楽な姿勢を探して休むようにしましょう。
同時に患部に氷枕や保冷剤をあてるなどして、冷やすのも効果的です。医療機関を受診することで、痛み止めや注射などの治療を受けることもできるので、受診するようにしましょう。
危険な腰痛の見分け方
以下のような条件に当てはまる場合は、危険な腰痛の可能性があります。
- 年齢が20歳未満、または50歳以上の腰痛
- 安静にしていても痛みが強い
- 胸にも痛みが広がっている
- がんやステロイド治療、HIVの感染の既往がある
- 栄養不良、体重減少
- しびれや筋力が低下している
- 側弯症や円背など骨の変形がある
- 発熱している
このような症状や条件に当てはまる場合は、早急に医療機関を受診するようにしてください。
介護での腰痛を予防すれば双方が安心できる!
今回は、介護で腰痛になる原因と予防のための対策についてお伝えしました。介護は腰に負担がかかりやすい作業が多いため、日頃から介護姿勢を意識して作業に取り組む必要があります。また、要介護者の力を上手く利用したり、福祉用具・福祉機器を活用することが大切です。
日頃から腰痛を予防するストレッチと運動を習慣にして身体を鍛えておくことも腰痛を予防する大切なポイントになります。
気をつけていても、腰痛になってしまった時は、危険な腰痛な場合もあるため、医療機関を受診するようにしましょう。
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