離れて暮らす親が高齢になると、足腰が弱くなってきたり、病気や物忘れがあったりと様々な心配が出てきます。親と離れて暮らしている人は、「同居」について考える機会も多くなることでしょう。
しかし、自分には自分の生活があり仕事や子供の学校など、今住んでいる地域での生活が確立しています。そういった時に「親を呼び寄せる」を考えるのではないでしょうか。
今回は高齢の親を呼び寄せるメリットデメリット、さらには事前に考えておきたいポイントをご紹介します。
親を呼び寄せるメリットとデメリット
親を呼び寄せることにはメリットもありますが、呼び寄せたことによって起こる予想外のトラブルもあります。
親を呼び寄せるメリット
- 健康状態や様子を常に確認できる
- 緊急時には直ぐに対応できる
- 通うための時間や費用が不要に
1番のメリットは何かあった時にすぐに駆けつけることができることです。遠距離介護では、通うための時間や費用がかかってしまいます。
呼び寄せることによって通うための時間はもちろん、金銭面で大きく節約することができます。
親を呼び寄せるデメリット
- 環境の変化が心身の負担になることも
- 距離が近すぎることがストレスに
- 生活スタイルの違いを合わせるのは大変
いくら親子といえど、しばらく離れて暮らしていれば生活のスタイルは大きく変わってきます。高齢者にとって環境の変化は大きなストレスになる可能性があるのです。
事例から考える親の呼び寄せ
実際の事例から、親を呼び寄せ暮らすことについて考えてみましょう。
骨折での入院がきっかけで、親を呼び寄せし同居へ
40代のミサコさんは、一戸建てに夫と小学生の男の子との3人で暮らしています。
隣の県でひとり暮らしをしていたミサコさんの母「ヨネさん」は、ある日の外出時に転倒してしまい、右大腿骨頸部を骨折、手術とリハビリのため入院していました。
医師から「今後杖は手放せないだろう」と説明を受けたミサコさん。退院後の生活が心配になりヨネさんを呼び寄せることにしたのです。ひとり暮らしのヨネさんも、退院後の生活には不安があり同居に踏み切ったのですが…。
安心して暮らせるけれど、やることがない?!
慣れない土地で友人もいないヨネさんは、特に出かける用事もなく、家で過ごす時間が長くなってしまいました。家事や買い物はすべてミサコさんがやってくれるため、ヨネさんは何もすることがなく、手持ち無沙汰の日々を過ごすことになってしまったのです。
せめて食事作りでも手伝おうと考えましたが、人様のキッチンは勝手がわからず、ミサコさんからも勝手に触らないようにと言われてしまう始末…。ヨネさんは意を決して、ミサコさんに自宅に帰りたいと伝えました。
自分でやらなきゃ!が生活に張り合いを与える
自宅に戻ったヨネさん。ケアマネと相談し、買い物用にと歩行車をレンタルし、ヘルパーさんの支援を受けながら、家事や買い物も自分のペースでやっています。
しばらくすると、杖を持たなくても歩けるまでに回復しました。
「心配してくれる娘の気持ちは嬉しかったけれど、やはり知り合いが近くにいて、住み慣れた自分の家で過ごす方がよかった。」とヨネさんは話します。
今の楽しみは、ご近所の友人とコミュニティセンターに通い、手芸や体操を行うことです。
親を呼び寄せる前に整理しておきたいポイントとは?
事例を参考にしながら、親を呼び寄せる前に考えておきたいポイントを整理しておきましょう。
離れて暮らす不安の原因を探る
なぜ離れて暮らすことに不安を感じるのでしょうか?その漠然とした不安の正体を具体的にあげてみましょう。
例えば以下のような不安が挙げられます。
- いざという時に駆けつけられない
- 家事や買い物などが大変になってきている
- 持病がある、退院後で体調が心配
具体的にリストアップすることで、より問題を明確にすることができます。
そして、本当にその不安は、親を自分の近くに呼び寄せることでしか解決できないのかを考えてみましょう。
駆けつけや安否確認、家事援助などは、介護保険サービスでも対応できます。通院が困難ならば在宅診療や訪問看護、介護付きタクシーの手配などで通院も可能です。
親を安心させたいという気持ちは素晴らしいことです。しかし、冷静に状況を分析してみると、呼び寄せは親のためと言いながら、本当は自分自身の不安を解消したいだけなのでは?と気づくこともあるのです。
親の希望は時間をかけて聞く
高齢者にとって住み慣れた土地から離れることは、簡単なことではありません。子供が良かれと思っていても、呼び寄せを望んでいない高齢者は多くいます。
今まで培ってきた暮らしや人間関係は、決して軽視することはできません。時間をかけて話し合い、お互い納得した上で呼び寄せる必要があります。
お互いの性格や家庭の事情、生活スタイルなどもふまえて、親の呼び寄せが適切な時期なのか、最適な選択なのかをじっくりと考えてみましょう。
同居しても日中は独居状態?!
今は、共働き世帯も増加しています。せっかく同居をしても、家族が仕事や学校などで日中に家にいなくなる可能性はないでしょうか。
日常生活が自立している方は良いですが、転倒リスクが高い人や認知症が進行している人などを1人にすることは危険です。自立していても、見知らぬ土地では友人もおらず、孤独に過ごすことになってしまいます。
そういった場合は、日中の過ごし方についてもよく話し合い、デイサービスや地域の体操教室、高齢者向けの習い事など、親の能力や趣味などを考えて利用してみましょう。
持病の治療に対応できる病院があるか
難病などでは、特別な治療や投薬を受けている場合があります。特別な治療を必要とする病気を持っている場合は、対応できる病院が近くにあるのかも事前にチェックしておきたいポイントです。
住宅改修の必要の必要性
呼び寄せる親の身体状況によっては、新たに2世帯住宅の建設を検討したり、自宅の住宅改修や福祉用具の設置が必要になったりする場合があります。
住宅改修は介護保険による補助金の対象になりますが、いずれもまとまった出費になることがあるため、事前に確認しておく必要があるでしょう。
まとめ
今回は高齢になった親の呼び寄せについて解説しました。同居することで安心感は得られますが、メリットとデメリットを知った上で、検討することが必要です。
親子といえど、長年異なる生活スタイルで過ごしている者同士が生活を共にすることは、お互いにストレスになる場合もあります。
事前に問題点や具体的に何が不安なのかをリストアップして、客観的に見ることが大切です。介護サービスや民間のサービスを利用することで問題が解消されることもあります。
高齢者のひとり暮らしには心配がつきものですが「自分でやらなきゃ!」という気持ちが身体機能の維持に繋がることも少なくありません。
同居するのか、住み慣れた土地で住み続けるのか。この問題に正解などないのです。
ケアマネージャーや専門家は様々なケースを見てきていますので、相談しながらお互いに納得のいく選択ができるようにしていきましょう。
参考文献 : 地域在住高齢者が転出に至る要因の研究