秋から冬にかけて気温が低くなってくると、入浴中の事故が多く報告されるようになります。
入浴中に事故死してしまう人数は、年間約19,000 人。そのうち、65 歳以上の高齢者が 9 割を占めています。
では、どうすれば入浴中の事故を防ぐことができるのでしょうか。今回は高齢者が自宅で安全に入浴できる方法と事故が起きた時の対策について紹介します。
入浴中に事故が起こる原因とは?
入浴中の事故が増える時期は、冬場が圧倒的に多くなっています。さらに、シャワーで済ませる欧米やヨーロッパよりも、浴槽に浸かることの多い日本に多い事故だということがわかっています。
入浴事故の原因は、以下の通りです。
- 浴室内との気温差によって起こる血圧変動(ヒートショック)
- 高温のお湯に長時間つかることによって起こる熱中症
- 転倒によるケガ
高齢者が入浴時に気をつけたい症状とは?
具体的にどのような症状が入浴中の事故につながるのでしょうか?詳しく解説していきます。
脱水症状
高温のお湯で長時間入浴すると、発汗による脱水症状がおこります。すると、血液中の水分も減ってしまうため、血液に粘りが出る状態になり、脳梗塞や心筋梗塞の発症の危険性が高まります。
血圧変動によるヒートショック
ヒートショックとは、気温の変化によって血圧が乱高下し、心臓や血管に負担がかかることで重篤な疾患が起こることをいいます。
冬場の寒い脱衣所では血管が収縮し血圧上昇が起こり、その後浴槽に入ることで急速に温められ、血管が拡張します。
血圧が乱高下することで、血管に負担がかかり脳血管障害や大動脈解離、心筋梗塞などのリスクが高まります。
特に高齢者は血流の変化に対する自律神経系の反応が鈍くなっているため、ヒートショックを起こし、入浴中の事故につながると考えられます。
高温長風呂による熱中症
冬場になるとお湯の温度も高めになり、長時間の入浴になりがちです。熱いお湯(42℃以上)に長時間入浴をすると、体温が上昇や血圧の低下を引き起こし、意識障害をおこすことがあります。
意識がもうろうとしてくると、浴槽から出ることが不可能になるため、さらにお湯につかり続けることになり、さらに体温上昇がすすみ熱中症になってしまいます。
転倒
浴室は濡れて滑りやすい状態になっています。足腰の筋力が低下していたり、麻痺があったりするとバランスを崩して転倒する危険があります。転倒してしまうと、浴室の硬い床や壁、浴槽に体を打ち付けるなどの事故につながってしまいます。
また、裸で転倒してしまうため、保護するものがなく大きなケガや骨折に繋がる危険があるため、注意が必要です。
高齢者の入浴事故を防ぐには?
入浴中の事故を予防するために、心がけたいことや具体的な対策について解説していきます。
湯温は「41度以下」浸かる時間は「10分まで」
熱いお湯や長湯が好きな人は特に注意が必要です。お湯の温度は41度以下にし、お湯に浸かる時間は10分までを目安にしましょう。
防水のタイマーや時計などを活用して、入浴時間がわかるようにしておくとよいでしょう。
認知症などで自分で確認することが難しい場合は、ご家族が10分〜15分ごとに様子を確認するようにしましょう。
冬場は脱衣所や浴室を温めておく
急激な血圧の変動を防ぐために、暖房器具などで脱衣所や浴室内を暖めておきましょう。
浴室に暖房設備がない場合は、移動できる小型のヒーターを設置したり、浴槽のフタを開けてお湯を沸かすと浴室内が暖まりやすくなります。
脱衣所や浴室内を暖めて、居室との寒暖差が少なくなるように工夫しておきましょう。
人がいる時間に入浴する
入浴中に体調の変化があらわれた場合は、家族などになるべく早急に発見して救助してもらうことが重要です。そのためにも入浴前に家族にひと声かけてから入浴するようにしましょう。
高齢者のみの世帯や独居の場合は、浴室内にスマホと連動する緊急用の呼出ボタンを設置したり、ヘルパーなどが訪問している時間帯に入浴するのも良い方法です。
環境整備を行う
転倒によるケガを予防するためにも、手すりの設置や滑り止めマット、立ち上がりやすい浴用椅子などの使用を検討しましょう。
介護保険を利用すれば、住宅改修や福祉用具のレンタル、購入ができます。
入浴中に異変!どう対応すればいい?
もしも家族が浴槽でぐったりしている状況になってしまったら、どのように対応すればよいのでしょうか。
- 浴槽の栓を抜く
- 119番、救急車を要請する。他に人がいる場合は助けを求める。
- 入浴者を浴槽から出せるようであれば救出する。浴槽から出せないときは、無理をせず、119番オペレーターの指示に従う。
- 肩をたたきながら声を掛け、反応があるか確認する。反応がない場合は呼吸を確認する。
- 浴槽から出せた場合:呼吸がない場合には胸骨圧迫を開始し、救急車の到着まで続ける。人工呼吸ができるようであれば、胸骨圧迫30回、人工呼吸2回を繰り返す。
このような状況になってしまった場合、冷静に判断するのは難しいかもしれません。しかし、事前に頭の中でシミュレーションしておくことで「何をすればいいかわからない!」という最悪な状況は免れる可能性が高くなります。
場合によっては命に関わる重大な事故に繋がります。事前に対応策を考えたり家族で話し合ったりしておくだけでも、大切な命を救うことができるかもしれません。
まとめ
高齢者に多い入浴中の事故と予防する対策について解説しました。
入浴中に事故が起こる原因としては、脱水症状や血圧変動によるヒートショック、高温の風呂に長時間つかり続けることによる熱中症や転倒によるケガなどがあります。
高齢者の入浴事故を防ぐには、湯温は41度以下、浴槽につかる時間は10分までを目安にしましょう。また冬場は脱衣所や浴室を温めておくと、気温差が少なくなり体への負担が少なくなります。
入浴するときは、家族やサービス担当者など人のいる時間に入浴し、こまめに声をかけてもらうようにしましょう。
また、転倒によるケガを予防するためにも、専門家に相談しながら、手すりや福祉用具の設置をするようにしましょう。
日々の入浴がより安全に楽しめるように、今回お伝えしたことを参考にして、事故を予防していきましょう。
参考文献: