入浴は日常生活の中でも大切なケアのひとつです。しかし、認知症などが原因で入浴を拒否する方は少なくありません。
今回は、在宅介護で入浴拒否をされないための対策や効果的な声かけ、誘い方をご紹介していきます。
入浴に対する考え方
本人が入浴を拒否してしまうと、清潔が保てず、家族も困ってしまいます。まずは「入浴とはどのような動作なのか」を考えてみましょう。
入浴は個別性が高い日常生活動作
入浴はこだわりが出やすく、個別性が高い日常生活動作といえます。
例えば以下のように、個人によって入浴への考え方が異なるのが特徴的です。
- 長湯はしたくない人
- シャワーで済ませたい人
- 浴槽にゆっくり浸かりたい人
- 髪や身体を洗ってから浸かりたい人
- 浸かってから身体を洗いたい人
- 毎日お風呂に入りたい人
- 1日おきでいいひと
自分では普通の事だと思っていた入浴方法も、他人から見れば全く異なることもあるのです。
入浴時はプライバシーに配慮
入浴時は裸になるため「できれば他者に見られたくない」「手を借りずにお風呂に入りたい」と思うものです。入浴時に介護が必要な状態になったとしても、プライバシーを守り、配慮することを忘れてはいけません。
このように、入浴とは、想像以上に多種多様な考えがある生活動作です。
入浴拒否が起こる根底には、介護する側と介護される側の入浴に対する考え方の違いが起こっていると考えられます。
入浴拒否の原因とは?
入浴を拒否する理由に、以下のような原因が考えられます。
入浴する必要がないと感じている
認知症などで短期記憶が低下しているケースでは、最後に入浴した日があいまいになっていることがあります。
最後に入浴した記憶が「ついさっき」のように感じているため、入浴をしたと思い込んでしまうケースです。
また、元気な頃から入浴がめんどくさい、必要最低限でいいと考えているタイプの方であれば、病気や加齢で体力が低下すると、さらに入浴が億劫になりがちです。
「理解不足」による入浴拒否
認知症などで理解力が低下していたり、難聴があると「入浴する」ということ自体が上手く伝わっていない可能性があります。
本人の立場で考えると「いきなり連れられて服を脱がされる」ことになってしまうため、拒否に繋がってしまいます。
言葉だけでなく視覚、触覚、嗅覚や聴覚など五感を使ってコミユニケーションをとるように意識することが大切です。
入浴に対する不安
入浴に対してよい印象を持っていない場合も、拒否に繋がることがあります。これは「入浴の回数が少なく清潔を保てていない」と家族から相談を受けたとある高齢者の事例です。
この方は、ご自身のおじい様が入浴中に亡くなってしまった経験から、「入浴中」への不安を抱いていることがわかりました。このようなケースでは、安心して入浴できる環境を用意することが必要になります。
羞恥心
裸を人に見られたくないという羞恥心から、入浴拒否をする場合があります。高齢になってまで恥ずかしがる必要なんてないだろうと言われる方がいますが、羞恥心に年齢は関係ありません。
家族でも同じことで、特に女性は異性の人に裸を見られたくないと考える方も少なくありません。
体調不良
痛みやだるさといった体調不良から、入浴を拒否する場合があります。認知症などがあると、不調を言葉でうまく伝えることが出来ず、不機嫌になったり、怒ったりすることがあります。
動きや様子を注意深く観察することが大切です。
入浴拒否を減らす方法とは?
では、スムーズに入浴してもらうためには、どのような声かけや工夫が必要なのでしょうか?
「見る」「話す」「触れる」という基本
フランスで開発された介護技術に「ユマニチュード」という方法があります。ユマニチュードは「見る」「話す」「触れる」ことをケアの基本としています。
入浴を始める前段階からの準備が大切です。視線を合わせ声をかけ、今日の体調などを聞きながら、入浴を促していきます。
入浴は相手に触れることが多くなります。相手が不安にならないように、触れ方にも配慮が必要です。
- 身体に触れる前に声をかける
- つかまず、広い面積でゆっくりと触れる
- 気持ちいいですね、あったかいですねなどポジティブな声かけを行う
触れ方を意識するだけで、相手の入浴に対する感じ方や安心感も変わってくるはずです。
清拭や足浴で様子をみる
どうしても入浴したくないという場合は、温かいタオルで手や足を優しく拭いたり、足浴からスタートするのも良い方法です。
清拭や足浴を行いながら、「体が温まると気持ちいいですね!」「洗うとさっぱりしますね!」「今度はお風呂に入ってみましょうか」など入浴をイメージする声かけを行っていきましょう。
入浴サービスを利用する
身体の状態に不安があり、自宅での入浴に不安がある場合は、安全に入浴できる施設を利用してみましょう。デイサービスやデイケアでは、専門のスタッフが入浴を介助してくれます。
また、歩行に不安があっても入浴設備のある施設も多いので、ケアマネジャーに相談して利用を検討してみるのもひとつです。
他の口実を作って入浴を誘ってみる
汚いから、不潔だからとネガティブな言葉を使ったり強い口調で連れ出したりすると、余計に反発してしまいます。「着替えをする」「薬を塗る」「スキンケアをする」など口実を作って脱衣所に誘導してみましょう。
そのうえで、「お湯が湧いてるから、ついでにお風呂にはいりませんか?」と声をかけてみましょう。
言葉以外で「入浴」を伝える
高齢者は難聴や認知面の問題から、言葉だけでは上手く伝わらないことがあります。
お風呂に入るということを、言葉以外の手段で伝えてみましょう。スケジュール表にお風呂の写真やイラストを載せて、見せながら伝えたり、タオルや石鹸をカゴにまとめたお風呂セットを見せながら伝えたりするのもよいでしょう。
まとめ
今回は、在宅介護で入浴を拒否をされた時の効果的な声かけや誘い方について解説しました。
入浴は裸になるためプライバシーに配慮する必要があります。また、入浴に対する考え方は個人個人で異なるため、介護する側の考えで入浴介助を進めてしまうと拒否に繋がることがあります。
入浴拒否の原因には、元々の入浴に対する考え方に加えて、認知症などによる認知力や記憶力の低下、身体面精神面からくる不調や不安などが考えられます。
家族だとしても人前で裸になることは恥ずかしいことです。プライバシーに配慮した介護を忘れないようにしましょう。
在宅での入浴は介護する側にとっても負担が大きいものです。
上手くいかない時はケアマネや専門家に相談し、決して1人で抱え込まないようにしましょう。