高齢者と関わる上で、ついつい身体の状態ばかりを気にしてしまいがちですが、常に「身体と心」はセットであり、両者が健やかであることで心身の健康が維持されます。どちらか一方に問題があるともう一方にも必ず何らかの影響を与えます。
今回は、現在はまだ社会的に注目されることが少ない「高齢者の心の状態」についてご紹介します。
高齢者の社会的環境
「定年して老後は悠々自適の生活」と夢見ていた現高齢者世代。理想とは違う現実に悩んでいる方も少なくありません。
足の筋力が弱ったり、膝が痛かったりすると、外出することが難しくなったり、日常生活や社会活動を行うことが以前のようにできなくなってしまいます。
また、男性は定年を迎えてからプライベートの交友関係が希薄な方も多く、社会的に孤立してしまうケースも少なくありません。
人が社会生活を行う上で、
- お金
- 心身の健康
- 人間関係
この3つが揃わないと思う存分活動することが難しくなってしまいます。
- 年金受給額の減少、平均寿命の延長
- 加齢による身体の不調
- 定年などによる周辺人間環境の急激な変化
などの要因により、高齢者は比較的に社会的活動が行いにくい環境が揃ってしまうことが多いものです。若年者であれば、日中は仕事をしたり、自然に生活しているだけで社会的に他者と関わる機会が存在するものですが、高齢者は意図的に努力して他者と接する機会を設けない限り、充実した社会参加の機会を得ることが難しい現状があります。
また、日本精神神経学会より、ストレス値の高い出来事の順位「出来事のストレス評価」が発表されています。
ストレスは主に周囲の環境から発生します。
その中から、
- 健康や死
- 親しい人間関係
に関するもので、高齢者に関係性の高い項目を挙げてみると、以下になります。
- 配偶者の死
- 親族の死
- 自分の病気や怪我
- 家族の健康や行動の大きな変化
- 友人の死
- 収入の減少
- 息子や娘が家を離れる
高齢者が多く経験する出来事が多く含まれており、高齢者の中でも、特に介護が必要な状態になった高齢者はストレス値の高い環境におかれやすい状況であることが理解できます。
「周囲の人に迷惑を掛けている・・」
「高齢者=身体の不調があってもおかしくない」という認識は社会的に強いと感じますが、意外と高齢者の心に注目することは少ないのかもしれません。
日中、家に篭りがちで外出しない高齢者に、「歩かないと身体が弱って寝たきりになるよ」と声かけするのではなく「なぜ外出しないのか?」とその理由を一旦冷静に考えてみる必要があります。
言われるまでもなく「歩かないと身体が弱る」ということは高齢者自身が最も気にしていることです。しかし、実際は身体にそれほど問題がなくても一日中家の中で過ごしてしまう方も少なくありません。
その場合、身体の状態だけでなく、心理的・精神的な側面からも考慮してみることが必要です。
また、高齢者自身は、「身体が思うように動かないせいで、周りの人に迷惑を掛けている・・」と思っていることも多いものです。自責の念が強く、そのため心身がさらに不活になり、さらに他者の介助が必要になる・・という悪循環が生じている場合もあります。
高齢者の心の健康のために
高齢者の「心の健康」のために効果的な方法をいくつかご紹介します。
社会的交流のある場を紹介する
なんとなく元気がなくなってしまった高齢者に対して、無理をせず、その人のペースで新しいことが始められる機会を待つ必要があると思います。
中でも、「社会的交流が生まれる新しいこと」を始めると状況が改善していくことが多いです。
具体的には、高齢者が集まる地域のコミュニティに参加するように促したり、デイサービスへ行ってみるように勧めるなどの方法があります。
しかし、それも他者が焦って勧めるのではなく、あくまで本人がやりたいと前向きな気持ちになるチャンスを待つ必要があります。
日光浴や運動
精神を安定させる働きがある神経伝達物質に「セロトニン」があります。
日光を浴びたり運動をしたりすると、セロトニンの分泌を促すことができるので、屋外の散歩や簡単な体操などを日常生活に取り入れ、適度に体を動かすように促すことで状況が改善することもあります。
その際は、ただ「運動しましょう!」と促すのではなく、「何か目的を達成するためにどこかに移動しなければならない、その際に歩く必要がある」という環境を作ってあげることで、自然に無理なく生活の中に運動習慣を取り入れることができます。
まとめ
高齢者だからといって、身体の問題だけではなく、「身体と心」両方に問題があり円滑に日常生活が送れない、という場合もあります。高齢者がそういった環境におかれやすい状況にあることを理解しておくだけでも、身体と心、両方に配慮した質の高い介護を提供できる可能性が高くなります。