お風呂で”しあわせほっこり介護”

お風呂で”しあわせほっこり介護”

私は訪問看護ステーションに勤務している理学療法士です。利用者様のお宅に出向いて訪問リハビリを行っています。

自宅での生活がより行いやすく、動きやすくなるように一緒に運動を行ったり、住宅の環境を整えて安全に暮らせるようお手伝いをさせていただいています。

利用者様が良くなることは何よりの喜びです。そして、私が訪問リハビリという仕事に魅力を感じるのは訪問リハビリを通して様々な家族の形をほんの少しのぞかせてもらうことができるからです。今回はそんな中で、「ほっこりした介護の話」をご紹介致します。

拝みたくなる、観音様のような利用者様

私が担当している〇〇さんは、ご主人と近くに住む娘さんの助けを借りながら暮らしています。数年前から認知症を患い、数分前の事はすぐに忘れてしまいます。
それでもいつもニコニコと穏やかな笑顔で迎えてくれるのです。

「いつもありがとう。私はしあわせ。大事にしてもらっている。」

〇〇さんからは、”ありがとう”という言葉がたくさんでてきます。何とも言えない優しいオーラが〇〇さんを包み込んでいて、本当に神々しい…。

私は〇〇さんが観音様のように見えるときがあり、おもわず拝みたくなるのです。

私が〇〇さんの訪問リハビリを担当することになったきっかけは、自宅で転倒し左肩を骨折して手術を受けたからです。早く退院して自宅でリハビリを受けたいという依頼があり、私が訪問リハビリを担当することになりました。

ご夫婦のしあわせは”入浴”

自宅で安全に過ごすためには、体の動きや日常生活動作のチェック、動きやすいように環境を整えることが必要です。入浴の方法について検討していたときのことです。

入院生活で安静にしていたことや肩に痛みが残って動きづらいこともあり、足の力も少し弱くなっていました。

浴槽のまたぎや立ち上がりは手すりを使用すれば行える状態でしたが、しばらくは見守りがあった方がより安全に入れるだろうと判断しました。

私はご主人にこうお伝えしました。

私:「浴槽の出入りは手すりを使えば大丈夫そうですが、お父さんが心配なら最初は看護師やヘルパーさんに入浴の介助に入ってもらうこともできますよ。まだ肩が上がりづらいので、洗髪や背中を洗うのは大変そうですから。」

するとご主人は、

ご主人:「わかった!風呂はわしがいっつも一緒に入っとるからみてやるわ!」
私:「ん??一緒に入ってるんですか?」
ご主人:「そうそう。昔からずっと。」
私:「えー!すごく仲良しじゃないですか!」
ご主人:「あははは!仲がいい訳じゃないぞ。空気みたいなもんだ。節約と介護だな!」

微笑む老夫婦のイラスト

そう言って大笑いするご主人とその横で少し顔を赤らめて照れたように笑う〇〇さん。

私はそんなお二人の姿にすっかりハートを射抜かれてしまったのです。。。

空気というものは目に見えないけれど、生きていくためにはなくてはならないものです。照れ隠しのようにお互いを空気だとおっしゃったその言葉に、深い意味と愛情を感じました。

一緒にお風呂に入るならと、自宅でできる肩のリハビリとして届く範囲でいいので、自分で両手を使って頭と体を洗う事、どうしても手の届かないところはご主人に手伝ってもらうようにお願いしました。

お二人の習慣にリハビリの要素を少し入れさせてもらったのです。コツコツ続けたお風呂のリハビリで〇〇さんは肩が上がるようになり、自分で頭が洗えるようになりました。

ほっこり介護が穏やかな表情を作る

できれば病気やケガなどせず健康にくらいしたいものです。

しかし今や人生100年時代ともいわれており、病気やケガ、老いは生きている限り必ず向き合なければならない時がやってきます。

以前出来ていたことが出来なくなったりすることもあり、本人も家族も辛い気持ちになることもあるでしょう。きれいごとで済むほど介護は簡単なことではありません。

そんな大変な生活のなかに「お風呂は一緒に入る」というお二人の習慣が、変わることなくずっと続いていることがとても素敵なことだと感じました。

すぐに色んなことを忘れてしまうけれど、〇〇さんが観音様のように優しいオーラをまとっている理由は、ご主人に大切にされていることをずっと感じているからなのだと思います。