「何を言っても断られてしまう」
「どのように声を掛けるのが正解かわからない」
「自発的に動くまでそっとしておいた方がいいのかな・・」
高齢者の中には、病気や加齢によって身体が不自由なまま生活をしている方も少なくありません。
そのような場合は、家族やサービス担当者が活動的な生活を過ごすための提案をしても断られてしまうことがあります。
本人の意欲ややる気がないと考えてしまいがちですが、実はさまざまな要因が重なり、意欲が低下した状態になっていることがあります。
高齢者にみられる「意欲がない」「やる気がない」状態になっている場合に、私たちはどのような対応をすればよいのでしょうか。
そこで今回は、高齢者の意欲が低下する原因と対応のポイントについてお伝えします。
意欲低下は本人の問題?
意欲が低下しているという前に、本人だけの問題かどうかを考える必要があります。
つまり、私たちが本人の望んでいないことや本人の意思を無視して強引に物事を進めているという可能性です。
よくみられるケースは、私たちが本人にとって難しい事を要求している場合です。
特に家族だと、長い時間を共にしてきたからこそ、以前の姿と今の姿を無意識のうちに重ね合わせ比較してしまいます。
以前のようにしっかりした姿に戻って欲しいという気持ちから「なぜこんなこともできないんだ!」とつい叱咤激励してしまうことも少なくありません。
加齢や病気によって体の感じ方や力の入れ方、動き方に変化が生じ、本人もその変化に戸惑いながら、思うように動けなくなってしまいます。
見た目ではわからないことも多いので、意欲が低下していると決めつける前に、本人の苦しみや訴え、感情を受け止めることが必要です。
高齢者の意欲が低下してしまう原因
意欲が低下してしまう原因はさまざまで、環境の変化による精神的な要因や加齢による身体的要因、あるいは認知症状のひとつとして現れる「アパシー」が挙げられます。
まずは原因を理解して、対応の仕方を変えてみてはいかがでしょうか。
環境の変化によるもの
高齢者は長い人生のなかで、さまざまな喪失体験をしています。
親、兄弟、友人、配偶者との死別、職を離れる事で社会的立場を失い、老化により身体面にも不安が出てきます。
このような心身ともに影響を及ぼす体験が孤独感や喪失感につながっていきます。
身体的な疾患に伴うもの
高齢者にみられるうつ状態の特徴は、脳卒中後など病気の後に発症することが多いです。
病気や加齢により身体の自由がきかなくなると、今までのように日常生活が送れなくなってしまい、そのことがきっかけでうつ状態になってしまうことがあります。
認知症に伴うアパシーとは?うつとの違い
他にも意欲低下を伴う症状としてアパシーがあります。
アパシーは認知症の症状としてあらわれます。
うつは焦燥感や不安感、自己嫌悪などがみられるのに対して、アパシーは自覚がなく無気力、無関心になってしまうのが特徴です。
うつと認知症は混同されやすいですが、治療方法が異なるため、気になる症状がみられた場合は専門科医を受診するようにしましょう。
対応のポイント
意欲が低い高齢者に、優しい言葉を掛けたり励ましたりして行動を促そうとしても、逆効果になることがあります。
対応のポイントは3つ。
相手の気持ちに寄り添いながら、時には行動を共にして、人との関わりを徐々に増やしていくことです。
時間は掛かりますが、徐々に前向きな気持ちへと変化がみられるます。
話を聞き共感する、否定しない
うつ傾向になると焦燥感や不安から悲観的に物事をとらえてしまいます。
例えば歩きたくない、動きたくないという訴えのなかに過去に転んでしまったことに対する不安感があったり、近所の人に弱ってしまった自分の姿を見られたくない、といった気持ちを抱えていることがあります。
「そんなことない」「考えすぎだよ」「頑張って歩かないと動けなくなるよ!」
と否定したり叱咤激励することは避けましょう。
表面的な言動だけを見るのではなく、なぜそう考えるのか?をさらに掘り下げて考えながら、本人の気持ちや感情をうけとめることが大切です。
安心できる環境づくり、本人のペースに合わせた生活リズムの改善
意欲が低下してしまうと、昼夜関係なくベッドに横たわってしまったり、部屋にひきこもったりしてしまうことがあります。
生活リズムが乱れると睡眠や栄養に影響が出てしまいます。
日光を浴びることや適度な運動は心身のバランスを整えるセロトニンを活性化させる効果があります。
最初は強引に外に出そうとせず、
・日当たりのいい窓際で過ごす
・軽く体操をしてみる
・庭に出てみる
といったことから始めてみるとよいでしょう。
無理なくこなせる課題を設定し、本人のペースに合わせながら生活リズムを改善していくことが大切です。
声のかけ方やかける人を変えてみる
一度誘っても嫌がる場合は、時間を空けて再び誘ってみましょう。
「買い物に行きたいんだけど一緒に選んで欲しい。」
「私も身体が固くなってきたから一緒に体操しましょう。」
というように言葉だけでなく一緒に行動するようにします。
また一緒に行ってくれたことに対して、一緒にできて嬉しかった、楽しかったというポジティブな感情を本人に伝えることで、その行動に対してよい印象をもてるようになり、次の行動につながりやすくなります。
一度ではうまくいかないこともありますが、繰り返し誘い続けることが大切です。
また、人を変えて声かけをしてみることが有効な場合があります。
人と関わる機会を増やす
他者との関りが少ない人は意欲が低下しやすい傾向があります。
ひきこもりがちでデイサービスなどの外に出向くサービスにも行きたがらない場合は、家に来てもらう訪問系のサービスを導入してみて、他者との関りを作っていくのも有効です。
集団の中に行くことや人に会うことを嫌う人でも、1対1の関係性であれば問題なく構築できる場合があり、そこを足がかりにして徐々に外に出ることに慣れたり、通所系サービスに通えるようになることもあります。
まとめ
高齢者にみられる意欲の低下は、さまざまな原因があります。
本人に問題があると決めつけず、身体的・精神的な部分から原因を考え対応していくことが重要です。
介護する側も1人で抱え込まず介護保険サービスをうまく利用しながら、色んな人に相談して協力してもらうことが大切です。