現場に確かに存在する「介護が生きがいな人」の心理

現場に確かに存在する「介護が生きがいな人」の心理

私は理学療法士として働き始めて10年、そのうち約5年間、在宅での介護の現場に関わってきました。

介護は一般的に大変なものだと思われているものですし、実際そういった側面もあります。
しかし、実際に「介護は生きがいだ」と思っている人もたくさんいるのが現実です。

その違いはどこにあるのでしょうか?

ポジティブ心理学とは?

ポジティブ心理学とは

私は理学療法士として働くうちに、身体だけでなく心のケアも大切だと思いポジティブ心理学を勉強しました。ポジティブ心理学とは「well-being」、つまり「より良い在り方=幸せ」を研究する学問です。

幸福や幸せというと今までは主観的なものでしたが、専門的に研究されることによって、統計学的に解明することが可能となっています。

今回は、より良く生きるポジティブ心理学の視点から、「介護が生きがいとなる人の心理」について筆を走らせてみたいと思います。

生きがいとは?

そもそも生きがいとはなんでしょうか?結論をいうと「その人が生きる意味」のことです。
より具体的にいうと、個人の価値観が大きく影響しています。

ご存知の通り、人には様々な価値観があります。
「お金を貰っても欲しくないようなもの」を大金を払って購入する人もいますよね。
価値観とはつまり、その人が何に価値を感じるか?ということです。

アメリカの心理学者 アブラハム・マズローによると、人の根底にある欲求は5段階あるとされています。

  1. 生理的欲求
  2. 安全・安心の欲求
  3. 社会的欲求
  4. 尊厳欲求(承認欲求)
  5. 自己実現欲求

です。

ただし、環境や好みによって人が求めるものは違います。
例えば、人から認められたいと思っている人は、尊厳欲求(承認欲求)が満たされるものを手に入れた時に価値を感じます。
これがその人の「価値観の元」です。

つまり、欠落していると感じているものを満たしてくれるものに人は価値を感じているということです。
現代の日本では、生理的欲求・安全欲求がほとんど満たされており、より内的な欲求である、尊厳欲求・自己実現欲求を求める人が多い傾向にあります。
「生きがいとなる介護」を紐解く鍵は、この「価値観」にあるのです。

幸せな人は感謝する

幸せな人は感謝する

「感謝は全てを癒す」という言葉があります。
ポジティブ心理学においても、感謝は最も効率的に幸福感をもたらすことが分かっています。

そこで、感謝の「効用」について、私が実際に介護の現場で出会った男性のエピソードをご紹介します。

彼は、奥さんが入所している施設に入り浸り、雨の日も風の日も毎日一生懸命介護しています。
奥さんは難病による寝たきり状態で、自力で寝返ることも、言葉を発することも出来ません。
彼はいつもこう言います。

「私たちの関係性(介護)を見て「大変だね…」という人がいるけど、正直なんにも分かってないな!と思うよ。妻には若い頃からずっと世話になりっぱなしだった。感謝してもしきれないんだ。だから今は精一杯、僕なりに恩返ししてるんだ。妻の介護は僕が今、生きる意味。つまり「生きがい」なんだよ。」

彼はいつも丁寧に、妻が寝ているシーツを綺麗に整え、全身に保湿クリームを塗りました。奥さんのお肌はいつもピカピカでした。
彼は介護をすることで奥さんに何十年にも渡る感謝の気持ちを行動で示し、幸せな気持ちでいるのだろうと思います。

彼にとって奥さんの介護は、感謝の気持ちそのものなんですね。

幸せな人は前向きな気持ちを持つ

幸せな人は前向きな気持ちを持つ

「子育ては終わりが見えるけど、介護は先が見えない」といいます。
しかし、介護の期間はある程度推測できます。

平成28年の厚生労働省の資料によると、日本人の平均寿命は男性の場合80.98歳、女性の場合は87.14歳です。そして、健康寿命は男性で72.14歳、女性は74.79歳となっています。健康寿命とは、人の手を借りなくても日常生活を過ごせる年齢のことです。

平均寿命80.98歳から健康寿命の72.14歳を引くと、平均8.84歳が人の手を借りながら生活をする期間となるのです。
つまり、約9年間が介護をする期間の平均値となります。

「先が見えない」と考えるのではなく、9年間という期間をひとつの目安にすると「大切な人の介護ができる期間は9年間しかない」と考えることができるかもしれません。

前向きな気持ちになる9つの感情

心理学者のバーバラ・フレドリクソンによると、前向きな気持ちには「9種類の感情がある」と定義しています。
それは、

  1. 喜び
  2. 感謝
  3. 安らぎ
  4. 興味
  5. 希望
  6. 誇り
  7. 愉快
  8. 畏敬

です。

介護状態にある方は、心身状態が安定しないことも少なくありません。
原因がわからずに発熱したり気分が悪くなったりして気を落としてしまうこともあるからです。
しかし、心身状態が安定しているときは、生活の中で感謝をしたり、希望・喜び・安らぎを感じたりすることも大いにあるはずです。

介護者は常に、愛情・興味・誇り、時にはユーモアを持って介護をする。そんな介護が前向きな気持ちで取り組む秘訣なのかもしれません。

意義を感じると熱中し、幸せになる

意義を感じると熱中し、幸せになる

介護に関わらず、人は意義を感じないことに熱中して取り組むことはできません。
介護の意義に関して、私が実際にお会いした女性のエピソードをご紹介します。

彼女は認知症を発症した90歳の母を自宅で介護しています。
訪問看護の看護師や医師からは「自宅で診ていると娘さんが大変だから、入所を検討した方が良いね」と数ヶ月もの言われ続けていました。
しかし、彼女は母の自宅での介護を強く主張したのです。

私は、率直に「なぜ自宅での介護にこだわるのですか?」と聞いてみました。彼女の気持ちを知りたかったからです。
すると彼女は、母との関係について話をしてくれました。

「私と母には良い思い出がないんです。母は昔、あまり子育てに熱心な人ではなく、私は幼少期からすごく苦労しました。正直、長い間母を心の底から恨んでいました。
でも今、母はこうやって認知症になってしまって、人が変わったようになった…。
私は、人生でたった1人しかいない母と、最後にひとつだけでいいから良い思い出を作りたいんです。」

私は、彼女が「母親の介護」をしているのではなく、「母親と最後の思い出作りをしている」ということに、その時はじめて気付いたのです。
周りから「介護」と見える行為に、彼女は大きな意義を感じています。いえ、介護ではなく、母親との「良い思い出作り」に熱中している状態なのです。

彼女にとっては、自己実現の過程のなかに母との介護があるのでしょう。

「PERMA」で幸福度が上がる

「PERMA」で幸福度が上がる

ポジティブ心理学において、幸せな人には共通する心理状態があるとしています。

  1. 前向きな感情(Positive)
  2. 熱中(Engagement)
  3. 人間関係(Relationship)
  4. 意義(Meaning)
  5. 達成(Achievement)

これら5つの要素のイニシャルを取って「PERMA(パーマ)モデル」と呼ばれています。

これまで紹介してきたエピソードはどれも、5つの内のどれかひとつ、あるいは全ての要素を含んでおり、結果として「介護が生きがい」と感じやすいのではないでしょうか。

参考)厚生労働省「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」

西野英行
理学療法士/ポジティブ心理学実践インストラクター

リハビリ現場の経験とポジティブ心理学の知識を活かして、その人の現在の環境の中で幸せに生きるためのアドバイスをしている。特に、クライアントの強みと価値観を明確にし、熱中できることを一緒に見つけていくことが得意。また、カウンセリング効果を数値で確認できるように、ツールを使って幸福度を数値化するサービスを展開。

ご相談がある方は、お気軽に下記公式LINEまでご連絡ください。
現在、公式LINEを友達追加して下さった方に、「パフォーマンスを3倍高める!自分らしい生き方を 見つける方法」のPDFをプレゼントしています。

「友だち追加」