介護疲れの原因と対策

介護疲れの原因と対策

日本は少子高齢化の国であり、2025年には国民の4人に1人が75歳以上になるとされています。
介護が必要な状態になっても住み慣れた自宅で暮したいという思いを持っている人は多く、国も在宅での療養、介護を推進しています。

しかし、安心して在宅療養や介護を受けるにはまだまだ課題が多いのも事実です。
虐待や介護心中などの胸が痛むニュースが後を断ちません。
そこには決して良し悪しで判断できない事情があり、心身ともに疲れ果ててしまった介護者の複雑な心境がみえてきます。

なぜそのようなことが起こってしまうのでしょうか?
それは、介護は家族の責任といわれていた昔とは異なり、時代の流れに伴い、介護者の社会的背景にも変化が訪れているからです。

世帯構成の変化

世帯構成

昔のように大家族があたりまえだった時代では、高齢の親を子ども夫婦、孫といったように複数人で介護することができました。
そして、ご近所との付き合いも濃厚だったので、何かあれば気にかけてくれることも多かったでしょう。

しかし、今の日本では核家族化が進み、近隣との関係性も希薄になっています。

  • 一人っ子、兄弟が少ない
  • 未婚の子供が親と同居している
  • 子供が遠方に住んでおり高齢者夫婦のみ
  • 兄弟は遠方で親の近くに住んでいる子供が1人で両親の面倒をみる

といったように1人の介護者にのしかかる負担がかなり大きくなっているのです。

介護を担っている世代は社会的役割を多く持っている

厚生労働省の調査によると、介護を担っている世代は1割が30歳以下、4割が40代50代、5割が60歳以上となっています。

40~50歳代は仕事、家事、育児なども担う現役世代であり社会的にも役割が多い年齢層です。
そして、半数を占めている60歳以上の世代は、介護者自身の体力や健康面にも不安を抱えている人も少なくないでしょう。

  • 育児と介護が同時進行しているダブルケア
  • 高齢の夫婦や親子兄弟が介護をする老老介護
  • 介護のために仕事をやめてしまう介護離職

介護者をとりまく問題は多様化しています。

なぜ介護疲れするのか?

なぜ介護疲れするのか?

なぜ介護疲れを引き起こしてしまうのでしょうか?そこには、介護者自身の心理も大きく関連しています。

Aさんの事例をみながら考えてみましょう。

事例】1人暮らしの母親を引き取り自宅で介護

Aさん(50歳)には、一緒に暮らす夫と高校生の息子、さらには結婚して県外に暮らす娘さんがいます。
80歳になるAさんの母親は1人暮らしをしていました。

最近物忘れがひどくなった母は、薬を飲み忘れることが多くなったせいか、持病の糖尿病が悪化してしまったのです。

Aさんは面倒見がよく責任感の強い人だったこともあって、「1人にはしておけない」と母親を自宅に引き取り介護することにしたのです。
母親を介護するために長年続けていたパートも趣味の習い事も辞めてしまいました。
また、ケアマネからは介護サービスを利用するようにすすめられていましたが、「自分がするから大丈夫だ」と断っていたのです。

しかし、家事や家族の世話に加えて、母親の介護は想像以上に大変なものでした。

夫は仕事が忙しいし、息子はまだ高校生、娘はもう嫁いでいる…。
介護は自分の役割だと自分に言い聞かせて、家族にも頼らなかったのです。
厳密な食事制限、薬の内服、血糖測定、インスリン注射、排泄の世話に入浴…。

Aさんは頑張って介護を続けましたが、母親の病状は安定せず食欲も落ちてしまいました。ベッドで過ごす時間が多くなり歩くこともままならなくなったのです。

きっかけは何気ない母親の一言

ある日、母親がAさんに「アンタの作るご飯は味気ないね…」と言ったそうです。
もちろん、それは母親のためにバランスを考え糖分と塩分を抑えてつくった食事。
Aさんの母親は、認知症がすすみ自分が食事制限が必要なことも忘れていました。

「こんなに頑張ってやっているのに!!」

Aさんは母親の言葉に傷つき悲しみと怒りが抑えられませんでした。
その日からAさんは母親にかなり厳しい態度で接するようになってしまったのです。

Aさんの様子に異変を感じた夫と娘がケアマネに相談しました。
ケアマネと家族の説得により訪問看護とデイサービス、そして週に何度か糖尿病用の配食サービスも受けることにしました。
その後、Aさんは時間にも気持ちにもゆとりをもって母親の介護ができるようになりました。

2年の在宅介護の末、母親を看取ったAさん。
「母親の世話は私がやらなきゃと自分を追いつめていたと思う。母親を叱りつけながら介護してたらきっと後悔してた。みんなに支えてもらって本当によかった。」

Aさんはそう話してくれました。

介護疲れしていませんか?チェック項目

先ほど紹介したAさんのように、誰にも相談せず介護を1人を抱え込んでしまうことが介護疲れを引き起こす原因になります。
そして、まじめで責任感の強い介護者ほど、自分が抱え込みすぎていることに気づいていないことがあります。

そんな時は周囲が気づきサポートしてあげることも大切です。
以下の項目で現在の状況をチェックしてみましょう。

  • 1人で介護をしている
  • 介護以外に負担の大きい役割がある(仕事や子育てなど)
  • サービスを利用していない
  • 介護についてどこにも相談していない
  • 疲れがとれない、いつも疲れた様子である

介護疲れを起こさないための対策

介護疲れを起こさないための対策

介護疲れを予防する対策をお伝えします。

専門の相談先をみつける、困ったことや不安なことはなんでも相談する

地域包括支援センターの窓口や地域の担当ケアマネジャーが介護に関する相談を受けてくれます。

些細なとでも気負いせず話すようにしてみましょう。

介護サービスを利用する

ケアマネジャーや各サービスの専門職はいろいろなケースをみています。
費用面や介護者の生活も考え、その人に合った介護サービスを提案してくれるのです。

また、介護サービスを利用することで介護士、看護師、リハビリテーション職などの専門家との関わりも増えます。
困りごとに対する相談や具体的なアドバイスがもらえるので、積極的に活用していきましょう。

仲間を作る

介護経験のある人に話を聞いたり、家族の会に参加してみるのもよい方法です。

インターネットが使えるならSNSなどを使って介護の愚痴や悩みを打ち明けるのもいいと思います。
同じ介護経験のある仲間どうしでつながりをもつことで励まし合えば、気持ちも軽くなるでしょう。

自分の時間、自分の生活を大切にする

自分の生活と時間のすべてを介護に費やしてしまわないようにしましょう。
介護離職をしなくてもいいように、会社や周囲の人に相談することが大切です。

また趣味や外出、スポーツ、友人と食事をするなど自分のための時間を持つようにしてください。
短期入所の施設やデイサービスなどを利用して、要介護者と離れた時間をつくることを意識しましょう。
例えば月1回、2泊3日でショートステイを利用するといったように、定期的に施設を利用するのもおススメです。
本人も施設に慣れておくことで介護者が急な体調不良や用事で自宅介護が難しくなった時にも安心です。

つらい気持ちを正直に吐き出す

介護者は、自分の気持ちを溜めこまないようにして欲しいと願っています。
悩んだりつらくなったりしたときは、ケアマネジャーや専門職、友人、時には要介護者本人に弱音を吐いてください。

あなたが介護している家族のことを心配するように、介護されている家族もまたあなたのことを心配しています。

「寝不足でつらいよ。疲れちゃったよ。休む時間をくれないかな」

疲れを隠してきつい言葉で責めてしまうより、時には子供のように甘えてみてもよいのではないでしょうか。

がんばらない介護。心を軽くする5つの心得

1人で抱え込まずに頼ろう

以下の5つのことが重要です。

  • がんばらない
  • 抱え込まない
  • 弱音をはく
  • 比較しない
  • いつかは終わる

実際に介護をする側の立場になると、必死になってしまって視野が狭くなってしまいます。
心に余裕を持たせるためにも、上記の5つを心得ておきましょう。

介護疲れは「1人で抱え込まない」が鉄則

在宅療養では介護者である家族の存在が最も重要になってきます。

しかし、介護を担っている家族にも生活があり、社会の役割があります。
介護にかかりきりになり、社会との繋がりが薄れていくことを避けなければなりません。

介護疲れを引き起こさないためには、周囲の人に上手に頼っていきましょう。
介護者も要介護者と共に自分らしい人生や安定した生活を送ることが大切です。