晩婚化が増えている昨今、介護業界では「介護」と「育児」の両方を担う「ダブルケア」が問題視されています。これは決して他人事ではなく、誰にでもおこりうる問題です。
そこで今回は、ダブルケアが増えている社会背景をはじめ、家庭に起こりうる問題点や私たちが備えて考えておくべきことをご紹介します。
ダブルケアとは?
ダブルケアとは、「介護」と「育児」が同時進行している状態のことです。
昔は「育児が落ち着いた頃に親の介護がやってくる」という流れが一般的でした。
しかし、女性の社会進出による晩婚化などによって子どもを産む年齢が高くなってきています。
その結果、子どもがまだ手のかかる年齢なのにもかかわらず、介護を同時におこなっている人が増えてきているのです。
ダブルケアが増えている社会背景とは?
では一体、ダブルケアはなぜ増えているのでしょうか?
ダブルケアは全国で約25万人
2016年4月に発表した内閣府の調査によると、ダブルケアをする人が全国で「25万3千人」もいることがわかりました。
また、ダブルケアの多くは女性が担っており、男女別に見てみると女性16万8千人、男性8万5千人という結果となりました。
さらに、年齢別に見てみると40~44歳が27.1%で最も多く、次いで35~39歳が25.8%、30~34歳が16.4%となり、30~40代が80%を占める結果となっています。
少子高齢化、晩婚化、出産年齢の上昇による影響
日本は少子高齢化であり、高齢の親を支える子の数も少なくなっています。さらに、社会進出する女性も多くなりました。
その結果、ある程度のキャリア積んでから結婚・出産を考えることになるので、結婚年齢や出産年齢も上昇しています。
結婚、出産は人生設計として計画的にすすられます。しかし、介護は突然やってくるものです。
そして、ダブルケアの特徴としては、出産した後に介護が始まった割合が非常に多くみられます。
ダブルケアはどの世代にも起こりうる問題
育児と介護を両立することだけがダブルケアとは限りません。ダブルケアのかたちも多種多様になっているのです。
たとえば、複数人の介護が同時に起こっている状態もダブルケアといえます。
- 育児と親の介護
- 育児と配偶者の介護
- 障がいのある子の介護とその兄弟の育児
- 両親が二人同時に介護状態
- 親と配偶者が同時に介護状態
状況によってはダブルどころかトリプルケアになっているケースもあります。また、育児は落ち着いているはずの団塊世代においても無関係とはいえません。
孫の世話と親や配偶者の介護を同時におこなっている人もいるため、ダブルケアのかたちは多岐に渡っています。
ダブルケアが抱える問題とは?
ダブルケアには様々な問題あります。
女性への負担が大きい
育児や介護などのケアの仕事は、女性がおこなうものという昔ながらの風潮が未だにあるようです。
内閣府の調査によると、ダブルケアが始まる前に仕事をしていた人のうち、業務量や労働時間を減らした人は男性で約2割、女性で約4割いることがわかりました。
そのうち離職して無職になった人は男性で2.6%、女性で17.5%となっています。
この結果からダブルケアに直面した場合に就労に大きく影響することがわかります。
特に女性は今就労している仕事の勤務時間を減らしたり、離職したりしてしまう割合が大きくなっています。
また、ダブルケアをしている当事者も育児や介護は自分でやるべきだと考えている人が多くいることがわかりました。
つまり、社会も個人も育児・介護は女性の役割だという認識が残っているのです。
ダブルケアは経済的な問題が起こりやすい
育児と介護を同時にこなすことは、心身ともに大きな負担となります。
前述したように、ダブルケアに疲れ果てた人が「仕事を辞めてしまう」「非正規になり労働時間を減らす」といったケースは少なくありません。
そうなると、収入が減って経済的にも厳しくなります。
介護費用が本人の蓄えでまかなえる場合は別として、足りない場合は介護者が負担することになってしまうからです。
介護される人が配偶者だったり、子どもにお金がかかる時期と重なったりすると、経済的負担はさらに重くのしかかってきます。
ダブルケアは個別性が高くさまざまな事情が絡み合う
ダブルケアには複雑な事情が重なり合ってしまいます。
- 育児をしている子どもの年齢や人数
- 介護が必要な本人の身体状況
- 日常生活の自立度
- 距離
- 関係性
- 経済状況
- サポートしてくれる親族の有無
個人で抱えるには負担が大きすぎるため、周囲のサポートが必須です。
介護と育児を複合的に支援できる相談窓口やサービスが不足
一般的に、介護の窓口は「地域包括支援センター」、育児に関する窓口は「子育て支援課」といったように別々に分かれています。
現時点では、介護と育児の両方を複合的にサポートしてくれる体制が整っていません。
すると、小さな子どもをかかえながらダブルケアをしている人は、預け先の問題が生じてきます。
たとえば、保育園などは働く親のために入園基準が設定されています。介護の時間を捻出するためにパートやアルバイトでしか働けない場合、入園基準を満たせずに不利になってしまうのです。
また、親が同居もしくは近くに住んでいる場合も困ったケースがあります。実際は親の通院のための送迎や家事の手伝いをしているのに、祖父母のサポートがあるとみなされてしまって保育園に通えなかったといったということもあるようです。
まとめて相談できる相談窓口の設置など介護・子育て支援の両方が連携とサポートをしていく体制が必要だと考えます。
そのためには社会全体の問題としてダブルケアを考え、声をあげていくことが大切です。
ダブルケアに備えて考えておきたいこととは?
私達すべての世代がダブルケア予備軍ともいえます。ダブルケアに備えて今から考えておきたいことはどんなことでしょうか?
地域の介護サービスや育児サービスについて調べておく
自分や親が住む地域にはどんな介護サービスがあるのか情報収集をしておきましょう。
また、「子どもが欲しい」と考えたときには、公立・民間両方の保育園をはじめ、学童保育やファミリーサポート、ベビーシッターなどの育児サービスを調べておくとよいでしょう。
勤め先の勤務体制は?介護・育児休暇や柔軟な働き方ができるかの確認
育児・介護は誰しもが担う可能性があります。
育児休暇や介護休暇の取得状況、リモートワークやフレックスなどの柔軟な働き方に対応しているかを確認しておきましょう。
その一方で、雇用する立場にある方は、ダブルケアが社会全体の問題だと捉えて、職場環境を整えておきましょう。
もしもの時について親の意向や蓄えについて家族と話し合う
日頃の雑談で「もしもの時」のことや「介護についての話題」に触れておくことが大切です。
なぜなら、突然のケガや病気で意思疎通がとれなくなることや、認知症で判断力が低下した状態になってしまうことも考えられるからです。
大切な書類の保管場所や銀行の暗証番号、伝えておきたいことを元気なうちにノートにまとめておくことをおすすめします。
家庭内の仕事は役割分担を!家族を巻き込み協力者を増やす
介護、育児、家事などの家庭内の仕事も社会貢献であり、立派な労働です。普段から育児や家事が家族内の誰か1人に集中してはいないでしょうか?
もしくは自分がやらなくてはいけないと、1人で抱え込んではいないでしょうか?
普段から家庭内の仕事も家族みんなで役割分担をして、協力体制を作っておきましょう。決して1人で抱え込んではいけません。
相談する、声をあげる
ダブルケアを乗り切るには、1人で抱え込まずにまずは相談することです。
地域包括支援センターなどの専門機関に相談して、積極的にサービスを利用することが大切です。
また、ダブルケアをサポートする支援団体や当事者同士の座談会など参加して、情報交換をしてみるのもよいでしょう。ダブルケアの当事者に対する支援の輪も少しづつ広がってきています。
さらに、今ではインターネットで気軽に繋がれる時代です。
SNSを活用して仲間をみつけたり、自分の悩みや不安な気持ち、思いを発信したりすることで繋がりが増える可能性があります。
まとめ
ダブルケアは誰にでもおこりうる身近な問題です。
今はまだ当事者ではないという人も、ダブルケアを知り「もしも自分だったらどのように考えて準備をするのか?」をイメージすることがとても大切です。
ダブルケアだけではなく、経済的な問題も考えると「仕事と育児と介護をどう両立していくか?」という時代に突入しています。
老若男女問わず、誰もがケアをしながら無理なく働ける世の中にするにはどうすればいいか?ここまで記事をご覧になった皆さんも、一緒になって考えていく必要があるのではないでしょうか。