高齢化社会と共に家族の形が変化しています。そんな中でも認知度が低いのが「ヤングケアラー」です。認知度が低いあまり、ヤングケアラーには支援の手も行き届いていないといわれるほどです。
しかし、政府はようやくヤングケアラーに対する本格的な調査と支援策を開始すると名言しました。そこで今回は、ヤングケアラーの現状と支援についてご紹介していきます。
ヤングケアラーとは?
そもそも、ヤングケアラーとはどのような人のことをいうのでしょうか?
介護や兄弟の世話を担う子ども達
ヤングケアラーとは、家族の介護や幼い兄弟の世話など、本来であれば大人が担う重要な役割を日常的に行っている「18歳未満の子ども」のことです。
具体的には、以下の項目にひとつでも当てはまる子どもがヤングケアラーです。
- 身体や精神の障がいを持つ親の代わりに家事全般を行っている
- 親の代わりに幼い兄弟の世話をしている
- 障がいを持つ家族の介護全般を行っている
- 目が離せない家族の見守りや付き添いをしている
- 日本語が話せない親や言語が話せない家族の通訳を担っている
- 親が働けないなどの理由で家計を支えるために労働をしている
- 依存症など問題のある家族に対応している
などがあげられます。
ヤングケアラーが増えている理由
近年は女性の社会進出や晩婚化が進んでいることから、出産年齢も上昇しています。
そのため、子どもが成人する前に、親が病気や障がいを抱えてしまうケースも増えているのです。
また、核家族化やひとり親世帯も増えています。
そういった家庭では、親が心身の不調などで働けなくなると子どもが大人の代わりに様々な役割をしなくてはなりません。
家事をしたり幼い兄弟の世話をしたり、あるいはアルバイトをして家計を支えたりするといった状態になってしまうのです。
日本におけるヤングケアラーの現状とは
日本のヤングケアラーはどのような現状に立たされているのでしょうか。まずは、立ち位置を確認しておきましょう。
ケアの対象は幼い兄弟や母親が多い
平成30年に実施された「ヤングケアラーの実態に関する調査研究調査」によると、ヤングケアラーがケアを行っている対象者は、兄弟が約73%、母親が約47%(複数回答)となっています。
兄弟のケアを行っている場合、幼いことからケアを担っている人が約61%、兄弟に知的障害や発達障害があるためにケアを担っている人がそれぞれ約11%という結果が出ています。
母親のケアを行っている場合は、母親が精神障害であるためにケアを担っている割合が半数以上を占めています。
また、割合的には少ないものの父親をケアする場合は、 父が精神障害や依存症であることからケアを行っているという回答がでています。
ケアをすることになった理由として
- 年下の兄弟がいるため
- ひとり親家庭であるため
- 親が家事をしない
などが上位にあがっています。
高校生の25人に1人がヤングケアラーという地域も
埼玉県が2020年に埼玉県内の高校2年生5万5,772人を対象とした実態調査では、回答のあった4万8261人のうち1,969人(4.1%)がヤングケアラーに該当する、または過去に該当した時期があったと回答しています。
ケアが生活へ及ぼす影響(複数回答)に関しては、19.1%が「ケアについて話せる人がいなくて、孤独を感じる」、17.4%が「ストレスを感じている」、10.2%が「勉強の時間が十分に取れない」と答えています。
大多数が「自分がヤングケアラーだ」と自覚していない
ヤングケアラー自身が「自分はヤングケアラーだ」と認識しているのは、約12%にとどまります。
その一方で「認識している」「わからない」と答えたのは約41%となっています。
また、「子ども自身がヤングケアラーと認識しているか」に対して「認識している」と回答したのは、小学生で8.0%であるのに対し、高校生では 14.9%となっています。
(出典:平成30年ヤングケアラーの実態に関する調査研究)
年齢があがるにつれて認識している割合が高くなっているものの、家族のケアをしていることが当たり前の日常になっており、自分がヤングケアラーだと自覚していない子どもが多くいることがわかりました。
また、ヤングケアラーだと認識していても、同級生や友人に打ち明けことができず悩んでいる子どもも少なくありません。
誰にも相談できず孤独やストレスを抱えているといった現状がみえてきます。
多感な年頃のヤングケアラーが誰にも相談できずに1人で悩みを抱え込んでることも、ヤングケアラーが表面化しづらい一因となっているのです。
学校生活や学習、進路にも影響
家族のケアや家事に時間をとられてしまい、学校生活や友人関係、進路や社会生活に大きな影響が出ているケースも少なくありません。
ヤングケアラーの学校生活への影響については「学校にあまり行けていない(休みがち)」が 約31%。「学校に行っているものの何らかの支障がある」のは約27%。「学校生活に支障がみられない」は約29%という結果がでています。
(出典:平成30年ヤングケアラーの実態に関する調査研究)
学校には行っているものの、
- 授業に集中できない、学力が振るわない
- 忘れ物が多かったり、宿題をしてこない
- 友達との関係がうまくいっていない
- 部活などの課外活動ができない
などといった支障がでている子どもが多くいることがわかりました。
しかし、こういった子ども達は一見問題児のようにみられがちです。もしかしたら重すぎる責任を背負っていることによって、このような状態になっているかもしれないのです。
ヤングケアラーに対する支援
そんなヤングケアラーに対して、様々な支援策が行われています。
全国で初めてのケアラー支援条例
令和2年3月31日に埼玉県では全国初のケアラー支援条例の交付・施行をおこない、具体的な支援策を打ち出しました。
子ども自身と学校関係者にヤングケアラー問題への理解を深め、支援環境を整えていくのが狙いです。
高校生や市町村の教育委員会、PTA関係者などを対象に実施され、元ヤングケアラーが学校で体験談を語る出張授業や行政の支援策についての説明などを行っていく方針です。
また、小中高生向けの啓発用ハンドブックの作成やオンラインなどを利用して元ヤングケアラーを交えての相談会を開催しています。
家族介護の悩みを周囲に打ち明けられない子どもたちから孤立を防ぎ、相談しやすい環境づくりに取り組んでいます。
国も本格的に支援策を検討
令和3年3月には、厚生労働省と文部科学省が合同でヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチームを立ち上げました。
実態調査や、自治体や支援団体へのヒアリングの結果を踏まえて、今後より具体的な支援策を検討していく方針です。
ヤングケアラーは周囲の人々の理解と協力が必須
ヤングケアラーについてご紹介してきました。
自治体や国も支援策に乗り出していますが、ヤングケアラーに対する支援はまだまだこれからといった状況です。
個人でできることは、ヤングケアラーについて知り、身近なところにも支援の手が必要な子どもがいるかもしれないという視点を持つことです。
子どもに接する機会の多い大人がヤングケアラーに対する理解を深め、子どもの出すサインに早く気づいて対応していくことが必要です。