みなさんは人生の最期の時間をどのように過ごしたいですか?大切な人も、もちろん自分も、いつかは必ず終末期を迎えることになります。
人生の終末期についての考えを家族・身近な人と共有しておくことはとても大切なことです。
そして、終末期のケアができるのは意思や看護師などの医療従事者だけではありません。家族だからできること、あるいは家族にしかできないことがあるのです。
今回の記事では、終末期ケアについてご紹介していきます。
終末期とは?
終末期は以下のように定義されています。
- 複数人の医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること
- 患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること
- 患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること
ただし、病状は個人によって大きく異なります。
いつからが終末期なのかを明確にすることは容易ではありません。
終末期医療に関するガイドライン〜よりよい終末期を迎えるために
引用:公益社団法人 全日本病院協会
緩和ケアと終末期ケアの違いと特徴
緩和ケアという言葉を聞いたことはありませんか?緩和ケアと終末期ケアには共通する内容も多いことから混同されがちです。しかし、実は異なるものとして位置づけられているのです。
心身の苦痛を和らげることに重きをおいている緩和ケア
がんを患った人におこなわれるイメージがある緩和ケア。終末期に限ったケアではなく、命に関わる疾患にかかった時から緩和ケアの対象となります。そのため、対象となる疾患は決められていません。
緩和ケアの主な目的は本人と家族の苦痛を和らげることです。身体的な痛みや精神的なケアも含めておこなわれます。
終末期ケアとの違いは、ケアの中心が「身体的な苦痛を医療行為によって解消する」というところです。
人生の残り時間を自分らしく生きるための終末期ケア
終末期ケアは、人生の最期が近づいている人とそのご家族が、残された時間をその人らしく穏やかに過ごせるようにケアをおこなうことです。
終末期ケアでは積極的な治療による延命よりも「精神的な安定や生活の質を優先させたケア」がおこなわれます。
終末期に感じる苦痛とそのケアについて
終末期は、苦痛に対するケアが重要です。終末期に感じる苦痛のことを「全人的苦痛(トータルペイン)」といいます。
全人的苦痛では以下のような
- 身体的苦痛
- 精神的苦痛
- 社会的苦痛
- スピリチュアルな苦痛
という4つの苦痛を感じるといわれています。
終末期における苦痛はそれぞれが独立しているわけではなく、関連して引き起こされているため、複合的な視点を持ってケアをおこなっていく必要があります。
身体的苦痛に対するケア
身体的苦痛とは、病気や老化によってもたらされる痛みや身体症状のことです。
また、その症状によって排泄や食事などの日常生活動作ができなくなってしまうことも身体的苦痛に含まれます。
身体的苦痛には、治療対象として医療的ケアや身体的なケアがおこなわれます。
医療的ケア
主に以下の4つが当てはまります。
- 投薬(痛みの緩和)
- 点滴
- 胃ろう、経管栄養
- 酸素吸入
身体的ケア
主に以下の4つが当てはまります。
- 食べやすく飲みやすいような食事の工夫
- 褥瘡(床ずれ)の予防とケア
- オムツ、ポータブルトイレの設置など排泄環境を整える
- 入浴介助清や拭を行い清潔を保つ
精神的苦痛に対するケア
精神的苦痛は、病気になったことで生じる心理的な苦痛のことです。
たとえば、以下のような思い込みが挙げられます。
- もう病気が治らないかもしれないという不安や気分の落ちこみ
- 身体が思い通りにならない事へのいら立ち
終末期をむかえている人は、病気になってしまったことでたくさんのものを失ったり、あきらめたりしています。
悲しみや怒りなど様々な感情と葛藤し苦痛を感じているのです。
精神的ケアでは本人が感じる苦しみを共有し、受け止め、本人の話しに耳を傾けます。
さらに、本人が大切にしてきた趣味や好きなもの、得意な事、大事にしてきた価値観などを一緒に共有し理解することが大切です。
社会的苦痛に対するケア
社会的苦痛とは、病気になったことで社会や家庭での役割が変化し、今までどおりの生活ができなくなることで感じる苦痛のことをいいます。
たとえば、以下のようなことが挙げられます。
- 病気の治療にかかる経済的な負担
- 仕事ができなくなったことによる喪失感
- 家族の負担が増えてしまうことへの心配
- 遺産相続の問題
- 家族友人との人間関係の変化
しかし、日本には終末期を支えるさまざまな社会保障制度やサービスがあります。
年齢や仕事、生活する地域によって利用する制度が異なりますので、まずは病院のソーシャルワーカーや地域包括支援センター、ケアマネジャーなどに相談することが大切です。
スピリチュアルな苦痛に対するケア
スピリチュアルな苦痛とは病気により心身ともに苦痛を感じ「死」を意識した時に感じる痛みや苦しみのことです。
具体的には
- 人生に対する意味
- 自責の念
- 死への恐怖
- 死生観に対する悩み
などがあります。
ただし、スピリチュアルな苦痛は決して終末期だけに感じる痛みとは限りません。
たとえば、いじめや虐待、引きこもり、差別を受けているといった人たちが感じる「生きづらさ」、さらには不安や絶望などもスピリチュアルな痛みといえます。
つまり、ケアの内容はすべての人に通じます。
スピリチュアルケアにおける目的は、その人が本来持っている強みに気づき、生きる力を培っていくことです。
スピリチュアルな痛みは、
- 時間存在(今生きていることが無意味に感じてしまう)
- 関係存在(人間関係が崩れて「孤独を感じたとき」)
- 自立存在(病気の進行と共に「自分が役に立たずな存在だ」と感じる)
という3つの要素からなりたっています。
本人が感じている苦悩が、どの痛みにあてはまるのかを見極めて対応していきます。
スピリチュアルケアは今を生きることを支えるケア
スピリチュアルな痛みは言葉として表に出てこないことがほとんどです。すなわち、相手の気持ちを想像して共感することが大切なのです。
苦悩や苦しみはすべて取り去ることはできませんし、他者を100%理解することもできません。
しかし、本気で自分を理解しようとしてくれる存在が目の前にいたらどうでしょうか?
真摯に相手の心に耳を傾け、理解しようと寄り添い、話を聞く姿勢が伝われば相手も心を開いてくれる可能性も高くなるはずです。
また、自分は大切にされているという心のつながりに気づいてくれるかもしれません。
スピリチュアルケアは安らかな死を迎えるためのケアではなく、今を生きることを支えるケアなのです。
【事例】家族だからこそできること
私は15年ほど前に在宅療養をしていた祖母の終末期に立ち会いました。
食欲もなくなり始めて、動くこともままならない。薬も効かなくなってしまいました。
私は、寝たきりとなりボーッとしている祖母に何ができるかを考えました。
それは子供の頃に祖母にしてもらったように、ベッドに潜り込んでギュッと祖母を抱きしめることでした。
するとあまり話さなくなっていた祖母がクスッと笑って「甘えんぼやねぇ…」とつぶやいてくれたのです。
祖母が「自分は大切にされていた」と感じながら、旅立ってくれていたらいいなと思っています。
私は、医療介護従事者にはできない「家族だからこそできる終末期ケア」があるのではないかと思います。
終末期は人生を見つめ直す機会でもある
日本は今、超高齢化社会です。しかし、医療の進歩によって平均寿命は伸びており、結果的に長寿大国となっています。
昔の日本では在宅で看取る機会が多くありましたが、今では病院での看取りが大半を占めています。
また、昨今では感染症対策がますます厳しくなっているため、病院・施設での家族の付き添いや面会も思うようにいかない現状があります。
老いや病気を抱えて終末期を意識した人がどのような痛みを抱えているのか。自分や家族はどんな終末期を過ごしたいのか。
身近な人と話し合いながら考えていくことで、自分の生き方や人生を見つめなおすきっかけになるのではないでしょうか。