この世を生きていく中で大切な人や愛するものとの別れは避けては通れません。
高齢者の方々は長い人生を歩んできた中で、配偶者や家族、友人を亡くし深い悲しみを感じてきた人が多くいます。
もし、自分の身近にいる人が大切な人を亡くし、悲しんでいたとしたら、どのように声をかければよいのでしょうか。
今回は別れや喪失感の中にいる人を支えるケア、『グリーフケア』についてお伝えしていきます。
グリーフとは?
グリーフとは「悲嘆、深い悲しみ」を意味します。すなわち、グリーフケアとは深い悲しみを抱えた方への配慮ある関わりを示します。
グリーフケアを知る前に、まずはグリーフそのものについて知ることが大切です。グリーフには、どんな種類があるのでしょうか。
なにがきっかけでグリーフケアが必要になるの?
「悲嘆、深い悲しみ」といっても、きっかけはさまざまです。
家族、大切な人との死別や別れ
- 家族、恋人、友人、ペットとの死別や離別
- 病死、事故死などの死別
- 離婚や子供との生き別れ
- 失踪や行方不明など生死がはっきりしない状態での別れ
- 失恋やケンカ別れ
長く生活を共にしてきた家族やパートナーとの別れは、残された人の生きる意味、さらには存在価値すらも見失うほどの深い悲しみをもたらします。
また、最近ではペットロスという言葉があるように、飼っているペットも家族の一員として扱われています。
しかし、周囲からはペットを「ただの動物」と軽く扱われやすい傾向があるため、つらい気持ちを理解されずに、深い悲しみの中で苦しんでいる人もいます。
大切なものをなくす悲しみ
グリーフは「命」があるものだけではありません。
例えば、
- 財産
- 家
- 仕事
- 記憶や思い出
など所有物の喪失なども含まれます。
物をなくすということは、そこに結びついた「大切な記憶を失う」と解釈した方がよいでしょう。
健康を失う悲しみ
- 病気や怪我による身体の一部や機能を失う
- 生涯にわたって治療が必要な状態が続く
- 老化により若さを失う
「自分が思うように動けない」「行動できない」ということは、その後の生活に大きな変化をもたらします。そのため、大きな喪失感が伴うのです。
環境の変化に伴う悲しみ
- 住み慣れた街からの引越し
- 転校
- 災害により住居を失う
慣れ親しんだ故郷や実家から離れることは、悲しみや喪失感を伴います。
社会的な役割を失う悲しみ
- 退職や引退で肩書きや社会的役割を失う
- パートナーとの離別、死別で夫、妻としての役割がなくなる
- 子供が自立し巣立つことで、親としての役割が一段落する
これらは一見すれば責任のある立場から開放されるような印象を受けます。
しかし、本人にとっては喪失感や悲しみにつながっていることがあります。
自尊心を失う悲しみ
- いじめや差別により自尊心を傷つけられる
- 中傷によりプライバシーを侵害される
- 自分が大切にしている価値観を否定される
このように死別だけではなく、実は身近に起こる問題でもグリーフとなりえることがわかります。
グリーフは何を失ったかではなく、その人にとって大切なものを失うことなのです。
身体や心に起こる悲嘆反応とは?
大切な人やものを失うと心身にさまざまな反応が起こります。
時間的な変化としては、
- ショック期:失った直後に起こる
- 喪失期:失った人やものに深くとらわれる
- 回復期:喪失感に適応し、日常生活を取り戻す
と分類されることもあります。
ただし、時間的な変化については個人差が大きく、一律に分けることはできません。
心身に起こるさまざまな反応
- 感情的な反応:深い悲しみ、絶望感、落ち込み、自責の念
- 認知的な反応:記憶力の低下、集中力の低下、無力感
- 行動に起こる反応:落ち着かない、過活動、引きこもり
- 身体に起こる反応:食欲不振、眠れない、頭痛、嘔吐、腹痛
これらの反応は深い悲しみを経験すると、誰にでも起こりうる反応です。
また、元々心身に疾患がある方であれば、病状がさらに悪化する恐れがあります。周囲の人が注意深く見守り、サポートすることが大切です。
深い悲しみを感じている人へのグリーフケア
実際にグリーフケアはどのようにして行われるのでしょうか?
その人の気持ちを勝手に解釈しない
悲しんでいる人を目の前にすると早く元気になってもらいたいと考えてしまいます。
- 「辛いけど頑張って」
「早く元気になってね」
などの言葉をかけてしまいがちです。
しかし、元気になってもらいたいと思っているのは「自分の気持ち」であり、目の前の人の気持ちではありません。
悲しみは簡単に計り知れないものです。
早く解決しようとして、安易に励ましの言葉をかけたりする必要ありません。
その人が感じている悲しみを一緒に感じる気持ちで、接するようにしましょう。
聞き役に徹して相手の気持ちを受け止める
- 聞き役に徹して、相手の気持ちを受け止める
- 悲しみを我慢せず吐き出せるような場を作る
- 相手の言葉に心を傾け、うなづきなど「あなたの話を聞いているよ」という意思表示をする
- 「寂しいね」「悲しいね」といった相手の発した感情の言葉をくりかえす
- 「頑張って」「元気を出して」などの声かけをしない
- 無理に会話を続ける必要はない
深い悲しみから回復する力「レジリエンス」を信じる
深い悲しみを経験することは、人生の中で大きな転機となります。
生きることすら辛いと考えてしまうこともあるでしょう。
しかし、ふとした時に大切な人や大切なものとの思い出がよみがえったり、新たなつながりが見つかったりすることがあります。
失った事実は変わらなくても、その人が備え持っている「回復する力」や「立ち向かう力」を信じて支援することが大切です。
自助グループ、サポートグループへの参加
自助グループでは、同じような経験や問題を抱えた当事者同士が胸の内を話したり、分かち合ったりすることで「ひとりではない」と感じることができます。
また、医者や臨床心理士など専門家が運営しているサポートグループなどもあります。
支援者として、住んでいる地域に自助グループやサポートグループがないか情報収集をしておくとよいでしょう。
まとめ
今回はグリーフケアについてお伝えしました。
グリーフとは、命あるものに限らず、その人にとっての『大切なもの』を失うことで感じる深い悲しみのことなのです。
そして、喪失感を感じることで心身に様々な影響がでます。
もしかしたら、自分の周りにいる人のなかにも、何事もなく毎日を過ごしているようにみえて、様々な別れや辛い経験と共に生きている人がいるかもしれません。
グリーフケアを学ぶことは、支援者としてだけではなく、自分の人生や自分の大切な人のことについて深く考えるきっかけになるはずです。