時代の変化による核家族化に伴い、老老介護、ダブルケア、ヤングケアラーなど、介護を担う家族にかかる負担が増大しています。
ケアを担っている家族は、どうしても自分のことを後回しにしてしまいます。しかし、安定した在宅介護を継続するには「介護する側の心身のケア」にも目を向けていくことがとても重要です。
今回は、そういった自分の思考に注目し、在宅介護で感じるストレスとセルフコーチングので自分を癒す方法をご紹介します。
介護する側が感じる「ストレス」
介護する側の身体的・精神的不安によるストレスが、自身の体調に大きな悪影響を及ぼす恐れがあります。
介護ストレスから介護うつに
介護うつとは、介護を担っている人の疲れやストレスが溜まった結果、発症するうつ病です。介護うつは、本人や周囲の人も気づきにくく、知らず知らずのうちに症状が進行します。
介護をしていると睡眠や休養が十分にとれない状況になるため、心身ともに疲れが溜まり、意欲や判断力が低下してしまうのです。
介護うつになると、以下のような症状がみられます。
- 眠れない
- 食欲不振
- 不安や焦り
- 気分の落ち込み
- 意欲の低下
不調がみられたら、早めに専門医を受診しましょう。
介護する側の身体と心を守るには?
全ての介護を家族でする必要はありません。家族が担当する部分、プロに任せる部分などを割り切って決めておくことも大切です。
介護をするときに注意しておくべき4つのポイントをご紹介します。
介護サービスの活用
在宅介護では、介護サービスを活用しましょう。訪問介護や訪問看護などの訪問系サービスを利用すれば、食事介助、排泄介助、入浴介助などをしてもらえます。
また、デイサービス、ショートステイなどの通所系サービスを使えば、介護する側の家族が休息することができます。
がんばり過ぎず、うまくサービスを利用することが、自分の身を守る上でも大切です。
睡眠、栄養、適度な運動
夜中のトイレ介助や昼夜逆転した対応をしていると、介護する側が睡眠不足になることもあります。
夜間の睡眠が十分にとれていない場合は、短時間でも昼寝をして身体を休めたり、美味しいものを食べて栄養をとったりしましょう。
また、軽い運動もストレス発散や気分転換に効果的です。なかなか長時間とることは難しいかもしれませんが、ラジオ体操やテレビ体操を5〜10分行うだけでも気分がスッキリします。
物理的距離をとる
イライラした時は、自分の気持ちを切り替えるために、被介護者(介護される側)やその場から離れて物理的な距離をとりましょう。
ただし、その場合は、介護される側の安全を確保した上で、以下のような声かけをしてから部屋を出るように心がけてください。
- 「トイレに行ってくるね」
- 「洗濯物をかたづけてくるね」
- 「ちょっと疲れたから休みます」
自分の時間を確保する
自分の趣味や好きなことをして気持ちをリフレッシュするのもおすすめです。
- ドラマや映画を観る
- 誰かのファンになる
- 好きな曲を聴く、楽器を弾く
- 手芸やものづくり
- ガーデニング
介護の合間なので、アウトドアな趣味はなかなか実践できないかもしれませんが、家の中でできることであれば十分に実践できます。
気分やテンションの上がる趣味や好きなことを見つけておくことで、気分の切り替えができるかもしれません。
介護で感じるイライラや怒りとの向き合い方
介護をしていてイライラしてしまうことは、決して珍しいことではありません。イライラして怒りを感じたときは、まず「自分が何に対して怒りを感じているのか」を少し冷静になって振り返ってみましょう。
怒りを否定したり、自分を責める必要はありません。
心の中で6秒間カウント!アンガーマネジメント
怒りを感じたときは「6秒数えてみる」のがおすすめです。これは「アンガーマネジメント」という心理テクニックのひとつで、自分の怒りをコントロールするのに効果的です。
脳が怒りに反応するまでには、およそ6秒かかるといわれています。6秒間だけ怒りを我慢できれば、冷静さを取り戻すことができ、怒りの感情が徐々に治まっていきます。
こだわりを捨てて楽になろう
介護に限らず、子育てや仕事でも、日常生活の中で他者は自分の思うように動いてくれないものです。
「これは今やらなくちゃ」
「この時間までに終わらせよう」
もしかしたら、今やろうとしていることは、自分がこだわっているだけかもしれません。
在宅介護は介護度が重くなるほど、色々なケアを家族が担うことになります。
食事の世話、薬の管理、排泄の世話、着替え、入浴…。
色々なスケジュールを頭の中で組み立て、考えていてもうまくいかないことは多々あります。
また、本人が言う通りに動いてくれるとも限りません。そうなると、つい口調がきつくなったり、イライラしてしまったりするでしょう。
例えば、食事をなかなか食べてくれないのであれば、時間にこだわらず、本人が食べたいタイミングで食べてもらうようにしましょう。
自分の中にある「〜しなければならない!」「こうあるべき!」を捨てて、肩のカを抜いてみるのもひとつの手です。
介護はひとりで抱え込まずに周囲に話す
介護をしているということを、あえて周囲に話すことで同じ経験を持つ仲間ができたり、役立つ情報を得ることができたりします。「ひとりで抱え込まない」というのも介護をする上で大切なことなのです。
元アイドルの新田恵利さんは、お母様の在宅介護についてこのように話されています。
「”言いふらす”ことで共感してくれる人もいて、気持ちがすごく楽になりました。」
ブログという手段を使って、介護していることを周囲に公表することで、自分の気持ちがとても楽になったそうです。
引用元:ジョブメドレー「ひとりで抱えず、言いふらす。6年半介護を経験した新田恵利さんに聞く“前向きな介護”ができた理由」
リフレーミングでプラス思考に
リフレーミングとは『「言葉」と「気持ち」を”はめなおす”』という意味で、物事をポジティブに変換することをいいます。
物事は考え方次第で良い面と悪い面が必ずあります。
例えば、転んでケガをしてしまった場合、ケガをしたという事実に対して「転んでケガをするなんて運が悪い!」という考え方と「転んだけどこの程度のケガで済んでよかった」という考え方ができます。
不満ばかり感じてしまう人は、無意識のうちに物事をマイナス思考に捉えてしまう癖があるかもしれません。
毎日の介護は大変ですが、人生の中ではある意味貴重な経験をしているともいえます。介護を通して経験したことが、将来誰かの役にたったり、共感することで心の支えになったりすることがあります。リフレーミングで物事を多面的にとらえるようにしてみましょう。
まとめ
今回は、在宅介護のストレスとセルフコーチングの視点で自分を癒す方法をご紹介しました。
介護する側は日々多くのストレスを感じており、介護うつになる危険性もあります。介護する側も、自分のことを後回しにせず、身体と心をケアすることが大切です。
介護は長期戦になることもあります。ひとりで抱え込まずに、ケアマネジャーや専門家に相談し、介護サービスを活用しながら上手に頼ることも必要なのです。
介護でイライラしたり怒りを感じたりしたときは、今回紹介したアンガーマネジメント(6秒間カウント)やリフレーミングを行い、自分の思考を整理してみましょう。